カンテラテンカ

ベルベルント復興祭 3

 3週間という期間は、短くはない。しかしちょっとした依頼や黒曜との戦闘訓練なんかをこなしていればあっという間だ。
 その間、らけるは親父さんや娘さんと焼きそばの完成度の追求をしていて、味見係にされたタンジェは、散々それを食わされる羽目になった。
 材料の収集はともかく料理をするのは親父さんなので、もちろん最初から不味くはなかったし、完成度が上がっていくさまを味わえる楽しさはあったのだが、流石に1週間もすれば、飽きる。それでタンジェは味見役をパーシィに押し付けた。パーシィはどうも味覚がトンチンカンなようなので、味見役として適正かは知らない。だが飽きずに毎日3食でも焼きそばを食い続けられる点で言えば適任ではあるはずだ。
 それから、ベルベルントは日に日に暑い。じりじりとした暑さだ。
 最初にベルベルントに来てからいよいよ1年が過ぎ、巡ってきた夏の暑さを懐かしく、また疎ましくも思う。エスパルタに比べて湿気が多く、高い建物と石畳に焼かれるような蒸し暑さだ。
 猛暑下での戦闘はずいぶん体力が削られる。黒曜との戦闘訓練も、日中の炎天下を避け朝か夜に行っている。

 予選会は参加申請から1週間後に行われた。
 場所は闘技場だ。参加の申し込みの際に伝えられた日時に闘技場に行くと、結構な数の予選会参加者が集まっている。
 予選会は、予選審査員と手合わせをして審査員に認められれば――要するに、審査員に勝てば――通過できるらしい。あくまで復興杯当日までは参加者同士は戦わないということだ。まあ、予選会でそんな複雑なマッチングを組むのは煩わしいだろう。
 アノニムも参加の申し込みはしているはずだが、予選会はいくつかにグループ分けされており、姿を見かけなかった。まあアノニムは予選会くらい簡単に突破するだろう。
 周囲を見回せば――ブランカは「すべての冒険者宿の戦士役が出るとしたら」などと言っていたが――確かにみんな風貌は戦士役らしい。ただ、全員が全員、筋骨隆々の力自慢かといえばそういうわけでもなく、中には小柄なやつもいたし、子供も老人も女もいた。若い男に偏ってこそいるものの、老若男女が揃っていると言っていいだろう。
 すでに何人も闘技場の中で予選審査員と戦闘をしている。タンジェは番号札を渡されて、指定された場所で大人しく順番を待つことにする。それほど待たずに番号が呼ばれ、案内されるままに前に出れば、まずは運営側で用意された木製武器を選ぶように言われた。
 スタンダードな片手剣のサイズと、大きめの両手剣サイズ、それから長柄のごく平均的な槍のサイズの木製武器だった。
「……これだけか?」
 思わず案内してくれたスタッフに尋ねると、
「いやぁ、いろいろ要望はあったんですが。全員の要望に応えるのはちょっと無理なので、中型、大型、長柄の3種でと決まりまして……」
 冒険者の中にはごくマイナーな武器を扱う者も多い。タンジェの使う戦斧は市場にもよく出回っている武器だが、緑玉のトンファーなんかは流通も少なく、メンテナンスや修理が手間だとぼやくのを聞いたことがある。確かにそんなマイナー武器まで細かく用意はできないだろう。それなら武器種は絞ったほうが公平だ。
 とはいえ、どれもタンジェには馴染みがない武器である。一つずつ持ってみて、一番重い両手剣にした。それでも木製だから普段使っている戦斧よりはるかに軽いのだが、片手剣はそれより軽すぎて、長柄は間合いが違いすぎる。
 軽く何回か振ってみたが、刃の大きさも柄の位置と幅も何もかも違うということが分かるだけだった。これで戦うのか……きついかもしれない。
 武器を選んだならすぐ審査員との戦闘だ。両手剣を持って歩み出ると、審査員がタンジェを上から下までじろじろ見てくる。それから審査員は、
「盗賊役はお呼びじゃねえって分からねえか?」
 と鼻で笑った。
 その言い草に覚えがあるのでよくよく審査員の顔面を見てみると、闘技場を勝手に自治している例のコミュニティの一員で、以前にタンジェがぶん殴った奴だと分かった。タンジェの予想に反して、あの自治連中は運営側らしい。よほど人手が足りないと見た。
「戦士役に紛れて盗賊役が出場したって恥かくだけだぜ」
 昔だったらもうぶん殴っていた。が、タンジェは自分で思ったより冷静に、
「別に役職に関しての規定はねえだろ」
「ふん、まあそうだな。そもそもここを通過しなけりゃ出られもしねえんだ」
 審査員が片手剣を構える。ずいぶんな自信と余裕だ。彼の実力のほどは知らない。長く闘技場を我が物顔で使っているのだから、まさかボンクラということはないだろうが……。
 タンジェも両手剣を握り、開始の合図を聞いてから、まず手始めに審査員の胴を狙って横薙ぎにした。素早く反応した審査員は片手剣で受ける。が、次の瞬間、タンジェの握った両手剣とそれを受けた相手の片手剣は粉々に折れ砕けて、審査員は衝撃で十数メートル後方へ勢いよくぶっ飛んでいった。
「……」
 タンジェの手に両手剣の柄だけが残っている。
 なるほど、とタンジェは一人で頷いた。タンジェの馬鹿力で何の考えもなしに木製武器を振るうとこうなるらしい。審査員はぶっ飛んだ先で頭を打ったらしくノびてしまっていた。
「……」
 周囲のスタッフが少しの沈黙のあと相談し合い、恐る恐るという様子で、
「ではあの、予選通過ということで……」
 それでいいのか。

 ともあれ予選通過というなら当日の復興杯には出られる。集合時間、それから対戦相手は当日公開のトーナメント表を参考のこと……などの事務連絡を受けて、タンジェは闘技場を後にした。

 ――のちにアノニムには「武器を折るなんざ三流だな」と鼻で笑われた。彼はだいたい棍棒で敵を殴りつけているが、確かにそれが折れるのを見たことはない。木製武器を扱うには単に力任せではなく、それなりの技術と力加減が必要だ、ということらしい。
 復興杯までの残り2週間分、黒曜との戦闘訓練は木製武器での立ち回りと力加減というテーマで行われた。

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