creepy sleepy 7
浮遊感があって、目を開ける。ずしりと身体が重くなる。タンジェは目覚めた。
周囲を見回す。食堂の中で寝ていた人びとがゆっくりと起き始めて、何が起きたのか分からないという顔をしていた。
「……」
視線を手元に下ろすと星飾りは光を失っていた。
ごそ、と衣擦れの音がして、黒曜が目覚める。タンジェはそこで、糸くずを払うために黒曜の前髪にわずかに触れていたことに気付き、慌てて糸くずを払って手を引っ込めた。とうの黒曜は眠そうに目を細めていて、その様子がまるで寝起きの猫みたいなので、気が抜ける。あんな壮絶な夢を見ておいて、寝起きの顔がこれだ。
向かいにいた緑玉と翠玉も目を覚まして上体を起こしている。
何が起きたのかとざわめきが広がる。食堂の奥からサナギがやってきて「やあ、起きたね」と告げた。
「……何があった?」
黒曜が尋ねると「パーシィのほうが詳しいね」と肩を竦める。そういえば悪魔とやらを追ったパーシィは無事だろうか。
ふと、視線を感じる。顔を上げると黒曜がこちらを見ていた。最後の告白は聞こえてないだろう。だが言葉にしたことでタンジェはすっきり満足した。未練はない。もう筋トレ中に怪我をしかけることもなさそうだ。
「パーシィを探してくる」
立ち上がる。
それに応えるように、星数えの夜会にパーシィが戻ってきた。タイミングのいい男だ。
「ただいま」
髪は乱れていたし、少し疲れた顔をしていたが、目立った傷もなく健康そうだ。サナギが「おかえり」と言った。
「タンジェはうまくやったよ」
「きみもな、サナギ」
パーシィは食堂を見渡し、みんなが起き始めているのを見て安心したらしい。少し顔を綻ばせたが、それからみるみるうちに眉が寄り、はぁと大きなため息をついた。
「きみはそうでもないみたいだね」
サナギが笑う。
「途中までは追えたんだけどな……」
悪魔のことだろう。
「パーシィ、説明を」
黒曜の言葉に、ああ、と顔を上げたパーシィは説明を始める。
「ベルベルント中の人びとが眠らされたんだが、これはどうやら、サナギの作った催眠術式を改変した悪魔による邪法で――」
その横からサナギが2歩ばかりタンジェに近付いて、「なんで使ったの?」と尋ねた。
「あ?」
「なんで黒曜の夢の中に入ったの? というのが正しいかな」
手に持っている光を失った星飾りを指して、サナギは首を傾げた。
「必要あった?」
タンジェは肩を竦める。
「別に理由はねえよ、事故みたいなもんだ」
ただ、と続けた。
「必要はあったな」