カンテラテンカ

エセンシア 7

 幸い、全員、怪我は深くはなかった。すぐにパーシィの癒しの奇跡で治療できる範囲だ。だが、一番深いであろうタンジェのメンタルの傷は、聖ミゼリカ教の奇跡を以てしても治療は叶わない。
 足取りは重い。しかし慣れた山中を、タンジェの無意識は迷わず歩いてくれる。
 サナギとパーシィはラヒズの行き先について考察し言葉を交わしていた。元来無口な黒曜と緑玉とアノニムは、いつも通り静かに、山道を歩くことだけに専念している。
 さっきの一連の出来事を気にしてるのは、タンジェだけなのだろう。
 でも、当たり前だろ、とタンジェは思う。自分が復讐相手と同じ種族で、復讐の始まりがそもそもタンジェ自身のせいだなんて、気にしないほうがどうかしている。気にしているのは、きっとタンジェがヒトと化け物の狭間にいて、それでも本質はヒトだからだと思いたい。

 タンジェはオーガを憎んでいる。タンジェが愛したもの、愛されたもの、すべてを壊された。
 この機会に、あのオーガどもと決着を付ける。そのつもりだった。
 なのに、今は分からなくなってしまった。

 オーガと化して、あの熱い鼓動を動力にしたとき、タンジェの復讐という燃え上がる情熱まで、まとめてくべてしまったのかもしれなかった。

 ――それが灰になってしまったのなら、俺はこの先、何を動力にして動けばいい?

【エセンシア 了】
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