羽化 5
- 2024/02/01 (Thu)
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結婚式が終わって数週間後のこと。サナギはリリセに呼び出されて、一緒にお茶をしていた。
「それでね、ヒカゲのやつ、研究用の植物を放っておけないから新婚旅行も後回しとか言い出すのよ!」
ほとんど一方的に愚痴を聞かされているサナギは、紅茶を啜る。
「錬金術師の鑑だね、ヒカゲは」
「真面目すぎるのよ!」
「でも、そこが好きだったり?」
「そうよ!」
ふんと鼻を鳴らしたリリセが自信満々に即答する。付け足したことには、
「アンタとは正反対でね!」
愚痴かと思ったら惚気で、惚気かと思ったらサナギへの誹謗であった。
あまりにも鮮やかに展開された一連のリリセの言動に、サナギはたまらず笑う。サナギの大笑いの意図をはかりかねたらしく、リリセは憮然とした顔でそれを聞きながら、ケーキの上のイチゴを頬張った。それからふと、
「あ、そうだ。ここは私が奢るからね。あのときの……6ヴェニー銀貨のお返し」
「ん? あれは儀式的なものだから、別にお礼はいらないよ」
いいから受け取りなさいよ、とリリセに睨まれてしまった。
「あのあと調べたんだけど……6ヴェニー銀貨は、確かにサムシング・フォーのマザーグースの最後に贈られるものとして記載があったわ。300年も前の児童書にね」
300年前か。何代くらい前の俺の記憶だろう、と、サナギは小さく首を傾げる。
「アンタ、何なの? 本当に変わった人」
改めて問われると、サナギ・シノニムは何者なのか、一言で説明はできない。
でも、確実に言えることはある。サナギはまた笑って、こう答えた。
「俺はサナギ。今も昔もこれからも、変わらず変わったサナギのままさ」
【羽化 了】
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