カンテラテンカ

ベルベルント復興祭 13

 屋台を回って、それからもいろいろなものを食べたり飲んだりした。遊戯屋台もいくつか楽しんだ。飲み物を買って休憩もとった。そんなこんなで夕方になれば、今まで店を開けていた人たちも仕事上がりに屋台に集まり始めて、いよいよ混雑が激しくなってきた。

 タンジェと黒曜はタイミングを見て、夕飯を買って星数えの夜会に戻った。
 夜会ではパーシィとアノニムがテーブル席で歓談――パーシィが一方的に何か話しているだけだ――していた。カウンターには野菜の入ったバスケットが置かれている。復興杯3位の賞品だ。封筒に入っているのは商品券だろう。
「おかえり」
 タンジェと黒曜に気付いたパーシィが声をかけてきた。「おう」タンジェは応じた。「ただいま」
「屋台を見てきたのかい?」
「ああ。てめぇら、ずっとここにいたのか?」
「いや、午前中は復興杯を見て、それから屋台も回ったよ」
 そしてだいたいのものは食べた、とパーシィは言った。食べ終わってからはここにいたのだろう。
「ズィーク、強かったか?」
 不意に気になってアノニムに尋ねると、「戦ってねえ」と言った。トーナメントなので、ブロックが違えば決勝戦まで当たらない可能性は確かにある。つまり別ブロックだったのか、と思っていると、パーシィが茶を飲みながら、
「初手で降参したからな。アノニムは」
「え?」
「あんなのと戦うだけ時間の無駄だ」
 アノニムが引き継いで答えた。
 アノニムはこう見えて戦闘に関してはドライでクールで理性的だ。"生存主義"。ハンプティとの戦いで分かったが、彼はまず勝機のある戦いしかしない。つまり、そういうことなんだろう。
「ベルベルントにそんな化け物みてえなのがいるとはな……」
「すごかったよ。全試合一撃KOだった」
 身内以外の人の見分けがろくについていないパーシィにさえ、ずいぶん強烈に印象に残ったようだ。
「そいつ、<天界墜とし>のときどこにいたんだろうな?」
「東門を守ってたらしい。1人で」
「……」
 それは……いろいろと極まっている。
 そこで「たっだいまー!」と勢いよく玄関を開いてらけるが戻ってきた。翠玉と緑玉、サナギも一緒だ。
「あ、タンジェも帰ってたんだ!」
「おう……おかえり」
 タンジェは申し訳程度にあいさつを返す。らけるは両手いっぱいに食べ物を抱えていて、
「お夕飯は夜会で食べようってことになってさ」
「人の出も増えたしな」
「うん、材料がなくなっちゃってもう閉め始まってる屋台もあったけどね」
 それでもあの数の屋台だ、まだまだ多くの人の腹を満たすだろう。
「な、みんなで食べようぜー!」
 屋台の飯をテーブルに並べ始めるらけるを手伝い、にこにこ笑顔の翠玉も袋からどんどん小分けの容器を取り出していく。
 こうして見る限りでは、らけるが翠玉に邪険にされている様子はない。だが脈ありかどうかはタンジェには分からないし、興味もなかった。ただ、そう、"応援する"と言ったのだった、カンバラの里から帰ったあとに。"協力はしない"とも言ったが。
 緑玉はすでに人混みに揉まれてグロッキーらしく、テーブル席に腰掛けて青い顔をしている。サナギも疲労困憊といった様子だったがこちらは興奮気味で、
「いやぁ、俺も何だかんだ長く生きてるけど、本当に楽しいお祭りだったよ!」
 緑玉に熱弁している。
「射的、面白かったねえ!」
 射的……確か、タンジェも黒曜と興じた。おもちゃの銃で景品を狙い撃つ遊戯がそんな名前だったはずだ。
「普段から銃使ってる冒険者に本気出されたら屋台側も商売上がったりだろ」
「いやあ、やっぱり実銃とは違うよ。それに俺が使っているのは拳銃でしょ? 形が全然違くてけっこう苦戦しちゃった」
 見ればサナギはまるまるとした緑色の鳥のぬいぐるみを抱えている。
「サナギ、それがほしいってずっと射的から離れないし、疲れた……」
 緑玉がぼやく。サナギは、
「だって欲しかったんだよ! ほら、緑玉に似てない?」
 緑玉は苦い顔をした。
「俺、そんなにまるまるしてない」
「冬毛なんだよ、きっと」
「この暑いのに?」
 2人の会話は気心知れた者同士のそれで、なるほどこれならタンジェが見ても仲が良さそうだと思う。黒曜と翠玉が静かに、だが穏やかに2人を見つめていた。
 屋台の飯のいい匂いが食堂中に広がる。留守番していた他のパーティの冒険者たちも匂いにつられてちらほら集まってきた。
「いっただっきまーす!」
 昼から晩まで屋台飯漬けで、栄養バランスはめっちゃくちゃだ。でも、きっとこんなことは今日1度きりだ。たまにはいいだろう。

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