カンテラテンカ

羽化 3

「おっそい!!」
 本日二度目! リリセとシェジミは、錬金術連盟の中でも苛烈な性格で有名なのだ!
「アンタねぇ、この私をいつまで待たせる気なのよ!?」
 黙っていれば可憐な美少女なのだけどね、口を開けばこんな感じ。もちろん、俺はそんな彼女を嫌いじゃない。
「はは、ごめんごめん。まさかこうして控室に呼ばれるなんて思ってもいなかったからさ」
「そうだよリリセ」
 モルが俺の援護射撃をする。
「リリセのワガママなんだから」
「本日の主役がワガママ言って何が悪いのよ!」
 この傍若無人ぶりにはさすがのモルもため息をつく。
「ごめんなさい、サナギくん」
「いいよ、いつもの調子で結構じゃないか。それで、なんで俺は呼ばれたのかな」
 リリセが一瞬、迷うように視線を彷徨わせたのを俺は見逃さなかった。気まずいときのリリセの仕草だということがすぐに分かる。新郎ヒカゲの研究成果に紅茶をぶちまけたとき、同じ顔をしていたっけな。ヒカゲは許していたけれど。あの二人が結婚かあ。
 考えている間に、リリセは俺に向き直って、こう言った。
「サムシング・フォーが盗まれたのよ!」
 俺は目を瞬かせた。
「誰に?」
「知らないわよ。だからそれをアンタに探してほしいの!」
 サムシング・フォー。花嫁に幸せをもたらす四つのもの。曰く、なにか一つ古いもの。なにか一つ新しいもの。なにか一つ借りたもの。なにか一つ青いもの。そして靴の中には、6ヴェニー銀貨を。
 今ではわりと廃れ気味の風習だと思っていたけど――俺もよく覚えてたな――リリセは割とロマンチストだから、式のために用意したのも納得だ。
「なんで俺に?」
 探すのはもちろんやぶさかではないけれど、それだけ疑問で先に尋ねた。
「それは……悔しいけど、アンタが一番賢いから!」
 俺はあの研究室で、自分が一番賢いなんて思ったことは一度もない。研究室の全員が何かに秀で、豊かな人間性を持っていた。でも、リリセがそう言い出すんなら、わざわざ否定することもないのかな。
「まあ、分かったよ。じゃあ、まずは怪しい人を見ていないか、参加者に聞き込みを――」
「待ちなさい!」
 俺が背を向けようとしたところで、リリセが引き止めた。
「ん?」
「……この部屋から出るのは禁止!!」
「え?」
 どういうこと?
「だから……アンタほどの人間なら、この部屋からでも犯人とサムシング・フォーのありかが分かるはずでしょ!」
「はは! 俺に、安楽椅子探偵の真似事をしろってこと?」
 リリセって発想が面白いんだよな。モルは心配そうにこちらを見ているが、今さらリリセを止める気はないようだ。
「いいよ。受けて立とうじゃないか」
 リリセはハッとした顔になったあと、また眉をきりりと吊り上げて、腕組みして俺を見つめた。
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