カンテラテンカ

羽化 6

 結婚式が終わって数週間後のこと。俺はリリセに呼び出されて、一緒にお茶をしていた。
「それでね、ヒカゲのやつ、研究用の植物を放っておけないから新婚旅行も後回しとか言い出すのよ!」
 ほとんど一方的に愚痴を聞かされている俺は、紅茶を啜る。
「錬金術師の鑑だね、ヒカゲは」
「真面目すぎるのよ!」
「そこが好きなんだろ」
「そうよ! アンタとは正反対でね!」
 フン、と鼻を鳴らしたリリセが、ケーキの上のイチゴを頬張った。
「あ、そうだ。ここは私が奢るからね。あのときの……6ヴェニー銀貨のお返し」
「ん? あれは儀式的なものだから、別に礼はいらないよ」
 いいから受け取りなさいよ、とリリセに睨まれてしまった。
「あのあと調べたんだけど……6ヴェニー銀貨は、確かにサムシング・フォーのマザーグースの最後に贈られるものとして記載があったわ。300年も前の児童書にね」
 300年前か。何代くらい前の俺の記憶だろう?
「アンタ、何なの? 本当に変わった人」
 改めて問われると、俺は何者なのか、一言で説明はできない。
 でも、確実に言えることはある。俺は笑って、こう答えた。
「俺はサナギ。今も昔もこれからも、変わらず変わったサナギのままさ」


【羽化 了】

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