カンテラテンカ

聖ミゼリカ教会の戦い 2

 光弾を連続で放って2匹仕留める。耳障りな音を立てて悪魔が落ちていく。灰になって消えた。
 悪魔たちは半分は俺に、もう半分は人々にかかっていく。俺を相手にするよりパニックになった人々を殺すほうが割が良い、と察した比較的賢い奴らは中級と呼べる悪魔ばかりで、叫び逃げ惑おうとする――人の壁があって逃げられるわけはない――非戦闘員に剣や槍を振りかざす。
「<ホーリーライト>!」
 それとは別に、目の前には迫り来る悪魔はいたけれども、俺は人々を襲っているほうの悪魔を優先して焼き殺した。眼前にいる悪魔の槍が肩を掠める。悪魔の力が流れ込み、傷が焼けたように熱くなった。
「ここは安全なんじゃないのかよ!」
「死にたくない! 逃がして! どいて!」
「押すんじゃねえ、どこにも逃げられやしねえよ!」
「助けて……! 助けて……!」
 ざわめきがあっという間に広まる。泣き喚く人々。これを納める手段は俺にはない。悪魔を焼き殺して安全を確保することでしか、恐怖に陥った人々を守るすべはない。
 だが、その恐慌の中で、確かに俺は聴いた。

 聖歌だ。

 誰かが聖歌をうたっている。
 悪魔を前にしてパニックに陥る人々の真っ只中に、悪魔を真っ直ぐに見て聖歌をうたう者がある。

 ――娘さんだった。

 彼女は聖ミゼリカ教徒ではない。だがこのベルベルントの初等教育では誰しもが簡単な聖歌を習う。その一番拙く、簡単で、でも誰もが知る旋律を、彼女はたったひとりで、うたっていた。

 聖歌を聞けば悪魔は怯む。祈りのちからが正しい方向に向いていればなおさらだ。俺の目の前の悪魔も明確に動きが鈍って、俺はそいつを消し炭にする。
 人々のどよめきは静かになり、やがて、

 やがて人々は、娘さんの声に合わせて、いっせいに聖歌をうたい始めた。

 俺は確かにそこに、信仰を見た。
 悪魔たちが真っ先に聖ミゼリカ教会の尖塔を攻撃したことを、俺は悪魔たちからの聖ミゼリカ教の――ひいては神への宣戦布告と受け取ったが、それはきっと、はじめに人々の心を折るためだった。
 だが、ヒトはこんなにも、挫けない。誰か一人でもその心をまっすぐに保っていられたら、その一人に次いで誰しもが前を向ける。
 サナギは、祈りは欲で、欲は重さだ、と言った。
 それが間違っていると、俺は言い切れない。人々は我欲で神に祈り、祈りが届かなければ簡単に信仰を捨ててしまう。
 だが、ここにあって聖歌は、何よりも清く、何よりも美しかった。

 この純然たる祈りにおいて、人々に救済をもたらさねば、天使としての名が廃る。

 祈りを借りてちからを集中させれば、天輪と羽根は具現化する。
 俺の、翼は。
 血で濁り、鎖に繋がれ重く、その重さで羽ばたくことすらままならない、穢れたそれだ。
 負った天輪は赤黒に錆び付いている。
 俺は、堕天使だ。ヒトの肉を喰らって『暴食』の罪により罰を受けたもの。
 だが人々の祈りを昇華して聖なる力に換えることを赦されたこの身は、こういう日のためにあったに違いない。

 俺は、堕天使パーシィは、神の名において、悪魔を殲滅する。

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