時計塔の決戦 1
戦いはずいぶん長引いていた。
俺――タンジェリン・タンゴ――は、盗賊ギルドと各門を往復したり、その途中でアノニムに会ったり、サナギに会ってガキ二人を押し付けられたりと忙しく駆け回っていた。侵攻する悪魔の練度は高くなく、ほとんどの冒険者が対応できている。だが、悪魔の数が、減らない。
次から次へとやってくる悪魔たちは、ベルベルントを破壊し、冒険者と戦い、そして死んでいく。そしてまた次にやってきた悪魔が、ベルベルントを破壊し、冒険者と戦い――。
ああもう、キリがねえ!
サナギの送還術式はまだ完成しねえのか? このままじゃジリ貧だ。怪我こそ増えてきたが、俺はまだ余裕がある。しかしベルベルント各所を回っていると消耗している冒険者を何度も見る羽目になる。傷は癒せても疲労はどうしようもない。
もう戦い始めてから2時間以上が経っている。冒険者は戦闘慣れはしているが、長い戦いをぶっ通しでするようにはできていない。
サナギに任されたガキ二人をミゼリカ教会に送り届けたとき、教会上空ではパーシィがほとんど一人で悪魔を迎え撃っており、侵攻の心配こそなさそうだったが――傷ついた冒険者が次々に運び込まれて、医療班は目を回す寸前、という感じだった。
限界は近い。一度どこかが決壊したら終わってしまう。
この戦争を終わらせる方法は、二つ。
サナギの送還術式を待つ。
あるいはラヒズを見つけてぶちのめし、<天界墜とし>を終了させる。
ベルベルントを回っている間に、サナギが無事に騎士団詰所に到着しているのは聞いていた。だからうまくすればじきにサナギは送還術式を完成させるはずだ――そう、思いたい。だが、いつになるか分からない。送還が成功するかも、分からない。
俺からすれば、後者の方法のほうが手っ取り早く、確実に思えた。しかし問題が一つ。とうのラヒズの居場所が分からない。
だが朗報は唐突に訪れた。それは本日何回目かの盗賊ギルドを訪れたとき、各所の情報とともにブルースからもたらされた。
「そうだ。ラヒズを見かけた、という情報があったぞ」
「何だと!!」
俺は身を乗り出した。
「どこにいるって!?」
「と、時計塔だ。入っていくのを見たってやつがいる」
俺の剣幕に押されてブルースが若干引いている。
時計塔! ベルベルントの中央に建つ、聖ミゼリカ教会の尖塔と対をなす巨大建築だ。
「よし! ありがとよ!!」
「お、おい。お前、一人で行くのか?」
すぐさま出ていこうとする俺に、ブルースの声がかかる。俺は振り向いた。
「当たり前だろ! 時計塔の中なんざ大して広くねえ。複数人で行っても仕方ねえよ」
「……」
ブルースは少し、何を言うか悩んでいる様子だったが、結局口から出たのはありきたりな、
「気をつけろよ」
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