カンテラテンカ

ニセパーシエル騒動 8

 天使パーシエルが消えたことは、まだソレルの町では知られていない様子だった。これから結婚式の準備を進めるにつれ、行方をくらましたことが知れて、大騒ぎになるだろう。そのパニックに付き合う義理はない。俺たちは知らん顔のまま予定通り昼の馬車に乗った。
 しばらく結婚詐欺師パーシエルの噂は流れるかもしれない。だが、その悪評はもはや天界から堕ちたパーシィを飢えさせうるものではなかった。
「タンジェにお礼を言わなくちゃいけないな」
 馬車の中でパーシィがぽつりと呟く。面倒に思い、「いらねえよ」と言ったが、無視してパーシィは俺に頭を下げた。
「ありがとう」
 この調査は――アルフとの邂逅は、パーシィにとってどんな意味があったのだろうか。言ってしまえば罪を糾弾され、二度と許しが得られないと知れただけの出来事だ。
 だがパーシィにナイフは突き立てられなかった。
 パーシィはアルフの感情をどう受け止めたのだろう? 知りたくないわけではなかったが、聞くのはやめた。パーシィが自ら語らないのなら、俺に礼を言った、それがすべてだ。

 俺は復讐に対して肯定も否定もしたくはない。善いとか悪いとかで判断したくも、されたくもない。
 加害者を許せ、とも言わない。俺はオーガ共を許せたわけじゃないし、アルフだってパーシィを許すことはないはずだ。

 ただ、すべての罪人がその罪に向き合うばかりじゃない。性根の腐った極悪人も、逃げ続ける臆病者もいるだろう。
 その中で、いろいろな感情や出来事にもみくちゃにされながら必死に前に進もうとするやつらくらい、互いに、法に、あるいは神に許されなくても、少しでも救われはしないかと、俺は思うのだ。

【ニセパーシエル騒動 了】
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