暗中ディスカバー 3
翌朝。降り続いた雨も朝早くにやみ、晴天が広がっている。
遺跡発掘現場に到着して間もなく、追加の冒険者パーティが現れた。トキが依頼書を照合し間違いなく依頼を受けた者たちだと確認してから、一同は簡単に自己紹介した。別にそうであるようにという規定はないのだが、追加冒険者たちも6人組で、リーダー、参謀、盗賊、戦士、聖職者、遊撃手の構成らしく、
「『雨のち晴れ亭』のカーマインだ」
と、まず名乗ったのは、追加冒険者のうち金髪の男で、彼がリーダーらしかった。
カーマイン一行とでも呼ぼうか、彼らのパーティは半数が女子である。
男は金髪のリーダーであるカーマイン、アノニムよりも大きな身体の戦士レグホーン、前髪で片目の隠れた陰気な雰囲気の参謀ゼニスの3人。
女は黒髪の盗賊役スズ、シスター服を着た聖職者――多少身軽に整えられてはいる――クロッカス、それからボブカットの遊撃手アイビーだ。
人の名前を覚えることが苦手なタンジェが、彼らすべての名前と顔を覚え一致させられるわけがない。タンジェはひとまず、カーマインの名だけ覚えられるように尽力することにした。
それからこちらも名乗る。とはいえ、黒曜一行で社交性が褒められるのはサナギとパーシィくらいだ。もっとも、パーシィの発言の無作法については褒めていい部分ではないだろうが……。タンジェは一言名乗るだけで済ませ、無口な黒曜やアノニム、明らかにカーマイン一行を歓迎していない緑玉に代わり、サナギとパーシィがほか全員分の紹介をした。
その様子を見たカーマインは、
「そちらの獣人たちは、クールだねえ」
と肩を竦めたものの、特に不快に思った様子はない。言葉にも差別的なニュアンスが含まれているわけではなさそうだ。
「いいじゃん。イケメンなんだから何しても許されんのよ」
あんたと違って、と言ったのは黒髪の盗賊役スズだが、スズが言うほど、カーマインの容姿が悪いようには思われない。目に見えて秀麗の黒曜や緑玉に比べればそりゃあ見劣りするかもしれないが。もっとも、人の美醜にこだわりのないタンジェにとってはどうでもいいことだ。
互いの名前を認識したところで、トキとともに遺跡発掘現場を確認する。やはりトレンチは多少、埋まってしまっていて、だがトキの言った通り濡れた土――というより、泥――は柔らかく、取り除くのは容易そうだった。
トキはカーマイン一行に発掘手順を説明するので、先にトレンチの復元をしてほしいと黒曜一行に告げた。頷く一同。分かりやすくていい。
タンジェたちは各々、大型あるいはハンディタイプのシャベルを手に取り、泥をトレンチから掻き出していく。服はたちまち泥まみれになったが、元よりタンジェは潔癖なほうではない。
「あれをやるわけ?」
「結構、汚れそうですね……」
と、小声で聞こえてきた。カーマイン一行の女子たちだ。これだから女ってのは、と苛立つ気持ちがないでもなかったが、あくまで小声で言い合うだけならマシなのかもしれない。
苛立ち半分にシャベルのフチに足をかけ、体重をかけて押し込み、泥を掬って放る。同じことを繰り返そうとして、タンジェは、泥の中にキラリと何かが光ったのを見つけた。屈みこんで泥をかき分け拾ってみると、小さな金色の粒であった。昨日以前にトレンチを掘っていた際にはまったく見かけなかったものである。
「トキ」
泥だらけのままトレンチから上がり、カーマイン一行に指示を出す直前のトキに声をかけた。トキは振り返り、タンジェが何かを言うより先に指先の金の粒を見て、手を顎に当て、興味深そうな仕草をした。
「それは?」
「今、トレンチ掘ってたら、泥の中から出てきた」
「おいそれ、金じゃないのか?」
と、横で見ていたカーマインが身を乗り出す。
トキはすぐには答えず、タンジェの手から金の粒を受け取ると、しばらく観察した。懐から手帳を取り出ししばらく見比べるなどして、トキは難しい顔になった。
「確かに金だな。だが……」
「だが?」
首を傾げたのは、前髪で片目の隠れた男ゼニス。カーマイン一行の参謀だ。
「状況から察するに、トレンチの下から浮いてきたわけではない。泥と一緒に、どこからか流れて来たんだ」
指先ほどの小さな粒だ。トキもそれ以上、確実なことは言えないのか、うーん、と唸っていたが、
「すまん。せっかく復元してもらっていたが、トレンチはいったん、あとでいい。この金の粒がどこから来たのかを確認したい」
黒曜たちは顔を上げた。文句は出なかった。元より、依頼主による方針の変更でぶつくさ言うようなやつらではない。黙ったままトレンチから上がり、その中で好奇心旺盛なサナギがしっぽ髪を揺らしながらやってきて、
「何を見つけたんだい、タンジェ?」
「知らねえよ。なんか、金の粒だ」
サナギはトキの手にあるそれを見て、「目聡いねえ。さすが盗賊役」と言った。泥の中の金だ、誰だって気付くだろう。サナギは皮肉を言うような男ではないのだが、タンジェは彼をジトリと睨んだ。サナギは笑っている。
トキはたっぷりの水が入った水瓶を指し示し、
「先に泥を落とすといい。そしたら周囲を探索しよう」
2つある水瓶は、タンジェとアノニムで今朝方運び込んだものだ。一同は言葉に甘え、水で適当に泥を落とした。どうせこれからの探索で多少は汚れるだろうから、最低限だ。川は少し歩いた先にあり、水不足に困ることはないだろうが、大きな水瓶に水を汲んでくるのはそれなりの労働である。タンジェやアノニムの怪力にかかれば水瓶も重くはないのだが、単に時間がかかるので。
11月だからして、もうかなり涼しい時期ではある。水も冷たい。ただ、気候ばかりは文句を言っても仕方がない。
身ぎれいにした一同はトキの指示に従い、三人一組になり、あまり離れないようにしながら周囲の森を探索することにした。
パーシィとアノニムと一緒に探索をしたタンジェは、注意深く草をかき分けていったものの、地面にはどんぐりなどのきのみが落ちているばかりだった。あれ以外の金の粒らしいものはない。
だが、十数分もすれば、
「おーいトキさん、こっち。ほかのみんなも!」
と、サナギの声がして、一同は再度集まることになった。