カンテラテンカ

暗中ディスカバー 4

 声を頼りに行ってみれば、サナギ、黒曜、緑玉の目の前に崖肌があって、昨日の大雨によってだろう、一部が崩落していた。その崩落している箇所に、柱らしきものと崖肌の奥に続く洞窟の入り口が露出していた。
「これは」
 タンジェとほぼ同時に到着していたトキが駆け寄っていって、露出した柱を眺める。
「とんでもないものを見つけたかもしれないぞ!」
 なんだなんだと、カーマイン一行も寄ってきて、
「これって、遺跡?」
「先ほどまで掘っておられたアントロッド遺跡とは違うのですか?」
 次々に疑問を口にする。全体的に寡黙で、その会話量の9割をサナギとパーシィで占めているであろう黒曜一行に比べればコミュニケーション能力がケタ違いである。トキは、
「さっきまでトレンチを作っていた遺跡は、地中に埋没しているものの一部が地震によって露出し、そこに遺跡があると判明したんだ。それを学者間ではアントロッド遺跡と呼んでいたが、実際はここはアントロッド遺跡群とでも呼ぶべき、遺跡の密集地帯なのかもしれない。距離的に見てもまったく無関係の遺跡というわけではなさそうだが」
 と言いながら忙しなく遺跡の柱や洞窟の入り口を眺め、慎重に触り、崖肌にぽっかりあいた洞窟の入り口のようなものの前でふと屈みこんだ。彼の足元には石板があって、タンジェが後ろから覗き込んでみれば、文字のようなものが掘られている。その下に猫らしき絵があり、目の部分に小さな金の粒が嵌まっていた。片目だけ。もう片目は何かの拍子に外れたらしく、空洞がぽっかり空いている。
 トキは先ほどタンジェが拾った金の粒を、その空洞に翳してみた。ぴったりだ。崩落ついでに外れ、泥に混じって流れていき、トレンチに注ぎ込んだに違いない。
「何が書かれているんです?」
 と、カーマインが尋ねた。冒険者というのはだいたいそういうものだが、好奇心旺盛な性分らしい。サナギを除く黒曜一行は無頓着なきらいがあって、この発見に目を輝かせているのもサナギだけだ。
「古代神聖文字だな」
 トキは言った。「読めるのか?」と続けてゼニスが尋ねれば、「潰れている部分もあるが、なんとか」とトキが応じた。
「『聖人アンセリオ……奇跡……を、……強欲なるグリドリトス……戒め、黄金とともにここに眠る……』」
 読み上げたあと、「なるほど」と、小さな声でトキが呟いた。鈍いタンジェにも分かることだが、昨日トキが諳んじてくれた『アントロッドの黄金の聖印』の話と合致する文言が掘られているようだ。つまりこの遺跡は天罰を恐れた人々が、石になったグリドリトスを封じた遺跡であるということだろう。
「黄金!?」
 にわかに沸き立つカーマイン一行。
「黄金があるの? それって、どのくらいの価値?」
 スズが尋ねた。トキは石碑の前で立ち上がり振り向いた。
「私たち学者からすれば、まあ値段はつかないだろうな。いくら積んでも譲ってくれという人もいるんじゃないか」
「……!」
 カーマイン一行は顔を見合わせた。
 だが、『アントロッドの金の聖印』の話が正しければ、黄金なのはロザリオだけのはずだ。それ以外は石になってしまったというのが話のオチなのだから。ロザリオだけでそんなに高値がつくもんか? まあ、黄金だからそういうこともあるか、とタンジェは雑に思った。少なくとも、この依頼の謝礼よりははるかに稼げそうな話ではある。
 だいたいの冒険者は強者との戦いや一攫千金を狙っているもので、こういう話にロマンを感じる者も多いだろう。単純に武者修行で冒険者をやっているタンジェにとってはそれほど興味のある話ではないが、生活のために金は欲しい。だからこうして、武者修業とは直接は無縁そうに見える遺跡発掘の依頼だってこなしている。
「本来の依頼からは外れるが、今、発見した遺跡の調査をしたいところだな」
 トキは少し悩んだようだった。
「アントロッド遺跡群だとすれば、今日まで行っていた発掘調査も蔑ろにはできないのだが……」
「ならさ、二手に分かれるのはどうだ?」
 食い気味に提案したのはカーマインだ。
「トキさんは行ったり来たりすればいいだろ。俺たちがこっちの遺跡に潜ってみるから、あんたら黒曜一行は、今日までどおり発掘調査をするってことで」
「なるほど」
 確かに効率はよさそうだ。どちらにせよ、黒曜一行には、カーマイン一行との共同作業には馴染めないやつが多いだろう。トキがこちらを向いて「構わないか?」と尋ねるので、黒曜は浅く頷いた。依頼主とリーダー黒曜がそう言うなら、反対する理由もない。
「ぜひ『アントロッドの黄金の聖印』をこの目で見たかったけど、発掘作業も大事だからね。こっちの遺跡の話は、ぜひトキさんに聞くよ」
 サナギもそう言ってすんなり納得した。サナギは寄り道を楽しむ性質だが、本質を見失うことはないのである。
「では、そうしよう。黒曜たちは、すまないが、先に戻ってトレンチを掘り返す作業を進めておいてくれるか? 私はカーマインたちとこの遺跡に潜ってみる。成果に関わらず、1時間前後で一旦そちらに戻るよ」
「ああ」
 黒曜はまた頷き、すぐにタンジェたちを先導して、本来の発掘作業の位置まで戻った。新発見した遺跡と発掘作業をしていた現場は歩いてほんの15分ほどの位置関係なので、トキもあちらの探索に一段落をつけて容易に戻ってこれるだろう。カーマイン一行も冒険者なのだし、危険もそこまでないはずだ。
「じゃ、続きをしよっか」
 と、ハンディタイプのシャベルを手に取り、サナギがちまちまと泥を掻き出し始める。汚れるのがイヤとかではなく、単純に、デカいシャベルを取り回せるほどの体力がないのである。元より期待していないし、何ならタンジェに任せてほしいくらいだ。トキが言うには、ここから何か遺物が出れば、そこからは繊細な作業らしいので、サナギにはそちらに注力してほしい。

★・・・・

 しかし、どれだけ経ってもトキは戻ってこなかった。
 トレンチに流入した泥をすべて排除し終え、休憩を取るなどして、ゆうに2時間は経っている。向こうの遺跡の探索に夢中なのかもしれないが、これ以降はトキの指示がなければ作業が進まない。いよいよ待っていられなくなったのはせっかちなタンジェで、
「しょうがねえな」
 立ち上がった。
「面倒だが、見てくる」
 呼んでこられそうなら呼んでくる、と続ける。
「一人で大丈夫かい?」
 一応、心配らしきものをしてくれたのはパーシィで、サナギも隣で首を傾げたが、
「一人で人を呼びに行くこともできねえと思われてんのかよ……」
「はは、まあ、未踏の遺跡だからねえ」
 と言っても、とサナギは続けた。
「盗掘防止の罠なんかがあったとして、先にカーマイン一行が解除してるか引っかかってるかしてるか。盗賊役のきみなら特に問題はなさそうだし……悪いけど俺、筋肉痛やばそうだから、お願いしていい?」
「……もうてめぇはさっさと休んでろ」
 呆れたタンジェが肯定代わりに言うと、サナギは「助かる」と素直に感謝の意を示した。
 人嫌いの緑玉、他人に関心のないアノニム、のんきな性質のパーシィがトキやカーマイン一行を案じていることはもちろんなく、タンジェについてこようとする者もいない。リーダーの黒曜はしばらくタンジェを見つめていたが、そのうち一つ頷いた。黒曜からの指示は、
「警戒を怠るな」
 だった。 

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