カンテラテンカ

暗中ディスカバー 5

 足早に歩けば、遺跡には10分ほどでついた。遺跡の中は明かりもないだろうから、あらかじめランタンを持ってきている。灯されたランタンに照らされ、遺跡の入り口は変わらず静かに口を開けていた。
 カーマイン一行とトキが侵入した足跡があり、タンジェはひとまず、それを追っていく。まず地下へと伸びる狭くて長い階段。下りきれば、少し広い空間に繋がり、石壁に包まれた通路が奥に向かっている。多少の枝道はあったものの、その先をカンテラで照らしてみると、すぐ行き止まりであることが分かることも多い。単純な構造の遺跡だと言えるだろう。
 さまよう靴跡が最終的に向かっている方向を見れば、どこに進めばトキたちがいるかは容易に知れた。
 枝道のほかに曲がり角がいくつもあって、タンジェは何回も角を折れることになった。山で生きてきたタンジェは方角というものがいかに大事か知っている。角を曲がるたびにいちいち自分の向いている方向を確認していった。恐らく今は、黒曜たちがいる本来の発掘地点の方角を向いている。トキはこれらをアントロッド遺跡群かもしれないと言っていたが、もしかしたら発掘しようとしていた遺跡と、今タンジェが歩いている遺跡は、そもそも一つのものかもしれないなどと素人考えで思った。
 そこから時折足跡を確認しながら20分ほど通路を歩いただろうか。ちょっとした広さのある小部屋のような場所で、タンジェはばったり、カーマイン一行に出会った。
「あ」
 と、カーマインが妙な声を上げた。
「おい。もう2時間以上経ってる。トキは1時間で戻る話だっただろうが」
 タンジェが手短に用件を言うと、カーマインは「あ、ああ、そう?」と、頭を掻いて困ったように笑った。
「作業が進まねえし、トキを呼びに……」
 そこでタンジェは、トキが見当たらないことに気付いた。「トキは?」
「あ、ああ。トキさんなら、先に上に戻ったぞ。入れ違いになったんじゃないか?」
「……」
 そんなわけはない。遺跡の各所にあった枝道は短く、迷う要素はない。遺跡から発掘地点の間だって、最短距離を行けば通るルートは限られる。トキはこの遺跡から外に出てはいない。
「てめぇら……トキをどうした?」
「ちっ」
 と、スズが舌打ちした。カーマインは短くため息をつき、
「トキさんなら、そっちだよ」
 向かって右手に指をさす。視線だけそちらに移すと、小部屋の端に通路らしきものがある。そちらにトキがいる? タンジェが来たのに助けも呼ばないということは、単に穏便な別行動なのか、それとも意識がないのか――。タンジェは慎重にそちらに歩み寄った。
「トキ?」
 通路の前まで来て、カンテラを灯して小路の奥に声をかける。だが返事はなく、タンジェは訝しく思う。
 小路の奥までカンテラの光は届いていない。タンジェは数歩、小路に足を踏み入れた。
「ト――」
 再度、名前を呼ぼうとしたところで、背中に強い衝撃が走った。バランスを崩し、よろけながらも振り向くと、巨漢の戦士レグホーンがタンジェに向かって腕を突き出していて、タンジェが体勢を整える前に踏み込み、力強くタックルをしてきた。
 バランスさえ崩していなければ、力負けはしなかったと思う。しかしレグホーンよりはるかに小柄なタンジェはあえなく後方に突き飛ばされ、そして、背中を床に強打する――ことはなかった。
 穴だったのである。
 やられた、と思うのと同時にタンジェは中空に放り出され、数秒ののち、今度こそ強く地面に激突し、そこで意識が一旦、途絶えた。

★・・・・

 暗闇の中に、ほのかに光る何かがあった。
 自分が目覚めたらしいと自覚するのに、数秒かかった。そのくらい暗い。目を凝らして光のもとを凝視すれば、それはどうやら黄金のロザリオらしいと分かった。黄金のロザリオは、石像に埋まっている――人の形をした、等身大もあろうかという立派な石像だ。
 タンジェはそれをぼんやり見ながら、ここはどこで、自分は何をしているのかを考えた。
「お、目が覚めたな」
 と、ぼんやりした光の下でこちらに振り向いたのはトキで、
「災難だったな」
 ごく気軽な調子で片手を挙げた。
「……」
 タンジェはそこで、自分が地面に倒れ込んでいることに気付き、身体を起こした。
「頭から落ちていたからなあ。下手に動かすのも危ないと思って、自然に目覚めるのを待ったが。実に30分近く意識がなかったぞ」
 頭から落ちる? タンジェはそれでようやく、自分がレグホーンに突き飛ばされて穴に落下したことを思い出した。
「あの野郎!」
 たちまち怒りが沸き上がり、タンジェは自身の頭上を見上げた。カーマインたちがいたあの小部屋の光すらささないのだから、自分が落ちてきた穴はどこかで曲がっていたり、歪んでいたりするのかもしれなかった。そうなれば、登っていくのは難しいだろう。
「あいつら、何なんだよ!」
「恐らくだが、何か勘違いしているんだろう」
 なんてことはないように言ったトキに、タンジェは「勘違いだ?」と眉根を寄せた。トキは、
「彼らはこの遺跡の奥に眠るコレを、とんだ財宝だと勘違いしているんだ」
 と、ぼんやりと淡く光るロザリオを示した。それから独り言のように、
「だが、気持ちは分からんでもない。こんな暗闇で自然発光しているしくみは、やはり神の奇跡の力によって生み出された黄金だからなのか? 気になるところはたくさんある」
「だが、換金すりゃ、結構な値になるんだろ」
 何が勘違いなんだよ、とタンジェが尋ねれば、
「このロザリオや周囲の石像の価値は、学術的な意味のほうがはるかに大きい。欲しい学者はいくら積んでも欲しいだろう、その言葉に嘘はないよ。ただ、そんな学者がどれだけいるか。普通の換金所に行って『アントロッドの黄金の聖印』だと言ったって、誰が信じる?」
「……」
「彼らはこの遺跡に眠る遺物を過大評価しすぎて、独占を企んだんだよ」
 頭が痛くなってきた。いや、したたかにぶつけたらしい物理的な痛みはとっくにないのだが――頑丈さがウリなのである――そういう意味ではなく。
「だが彼らは、まさかさらに地下にこの宝があるとは思わなかったらしいな。まだ上を探しているようだ」
「あの小部屋か……」
「しかけのようなものもいくつかあったが、まあほとんどは盗掘を避けるためのダミーなんだろう」
 それを何とか突破しようとしているらしい、と。
「しかしてめぇはなんでこんなところでぼんやりしてんだ。必要ならあの宝をさっさと取って、おさらばすりゃいいじゃねえか」
「いいことに気付いたな、タンジェリン。この場所はどうやら、出口がないようだ」
 トキは何でもないことのように言った。
「たぶん、私たちが突き落とされた穴も、経年劣化で自然にできたものなんだろう。少なくともこちら側から開く扉のようなものはない。壁の……」
 とんとん、と壁を軽く小突き、
「音の跳ね返りから察するに、隣接する部屋あるいは通路はありそうなのだが。要するに、隠し扉だから、目に見えて扉の形をしていないのだろう」
 そして内側からそれを開くことも想定されていない、とトキは続けた。
 タンジェはそうかよ、と言った。思いのほか動揺していない。カーマインたちが上のしかけを解き、ここに辿りつくのを待つしかない、か。それはそれで、あまりよくない結果のような気もするが。
 上部に穴自体はあるので、深い遺跡とて、ひとまず酸欠の心配はないだろう。タンジェだって、空気で人間が生きていることくらいは知っている。
「まあ、今は待ちのときだな。カーマイン一行が、いずれここに辿りつける程度には練度のあるパーティであることを信じよう」
 トキは冗談めかして言った。不安は特に、ないらしい。冒険者でもないのに気丈な男である。それとも、フィールドワークを主とする学者というのは、みんなこうなのだろうか。
「そうかよ。そいつは退屈だな」
 タンジェは本音をこぼした。トキは笑った。
「それじゃあ、こんな話はどうだ? あるところに男がいて――」

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