暗中ディスカバー 7
聞けば、黒曜たちはタンジェが発って1時間ほどでタンジェを追い、この遺跡に来ていたらしい。
黒曜たちは黒曜たちで、別行動を取らされたり、遺跡が多少崩れたりなどのアクシデントはあったそうだ。それでも最終的に、黒曜はこの石像とロザリオのある隠し部屋の近くまで辿りついた。タンジェが石像の腕を叩きつけて音を立てたことで最後の隠し扉の正確な位置が分かったので、黒曜は隠し扉を開けることができたのだった。
「結局のところ、タンジェリンの不屈の精神が私たちの身を救ったわけだ」
と、遺跡の外まで救出されたトキはいいように言った。
「無事でよかったです」
「タンジェリンのおかげだな。私は半分以上、諦めていたよ」
それは実感として、ある。トキは途中まで、少なくとも彼自身の命を諦めていた。自己犠牲は世間一般では立派で美しい行為なのかもしれないが、タンジェは死ぬほど馬鹿馬鹿しいと思っている。
すっかり日は高い。タンジェは数時間ぶりに外の空気を吸い込んでから、
「……そういや、カーマインたちはどうした?」
心配ではなく、単に行方が気になって尋ねた。レグホーンに突き飛ばされて穴に落ちたのだから、文句か拳は叩きこんでやらねば気が済まない。
黒曜は、
「見なかった」
と、無表情で言った。
「宝は諦めて、帰ったんじゃないの」
言ったのは緑玉で、ほかのメンバーも行方は知らんとばかりに首を横に振ったり、傾げたりした。
「……」
訝しく思わないではなかった。黒曜は、タンジェが<罪の鏡>に囚われたとき、その犯人のトリカのことも"見なかった"のだと言った。けれど嘘だったとしてタンジェ相手にそんな嘘をつく理由も思いつかない。それに、カーマイン一行があの小部屋で相当、手こずっていたであろうことは――いつまで経っても最奥の隠し部屋に来なかったことから――事実なので、緑玉が言うように、宝を諦めて早々に帰ったというのはもっともだと思えた。
「ちっ、一発くらい殴ってやりたかったが」
「何があったの?」
今更ながらサナギが尋ねる。タンジェは口ごもった。レグホーンに突き飛ばされて穴に落ちたことを暴露せねばならないらしい。あまりに無様なので、言いたくはなかったが、経緯を説明しなければサナギは納得しないだろう。
渋々タンジェは、自分がトキを探しに来たときにはすでにトキが隠し部屋への落とし穴に突き落とされていたこと、自分も同様に突き落とされたことを話した。
「雑魚」
「ダッサ」
とアノニムと緑玉がボソッと言うので、タンジェは何か言い返してやろうと思ったのだが、自分でも自分に同じことを思うので、結局言い返す言葉は浮かんでこなかった。
「ふふ」
トキが笑った。
「タンジェリンの啖呵を知らないから、そう言うのさ。本当にかっこよかったぞ」
それはそれで、わざわざ言われたい言葉でもなかった。タンジェはトキを睨む。
「でも、残念でしたね。『アントロッドの黄金の聖印』の隠し部屋まで行けたのに……」
とサナギが言ったところで、トキは懐から何かを取り出した。石像のかけらと淡く光る黄金のロザリオである。
「て……てめぇ! あの状況下で、持ち出してたのかよ!?」
「当たり前だろう、いつ更なる崩落が起きて、埋まってしまうか分からないからな」
トキは悪戯っぽく笑った。
「私は学者だ。学問のために死ねる」
それはきっと、タンジェが、最善のためなら死ねると確信を持って言える信念と同様のものだ。
学問は、未来の人間に託すものだ。考古学は、過去を知ろうとするものだ。未来と過去を結び付けるこの男のことを、タンジェは眩しく思った。きっと彼が手に持っている、輝くばかりのロザリオのせいだ。
★・・・・
カーマイン一行の行方は一向に知れず。けれどもアントロッド遺跡の発掘調査は以降も続き、そこそこの発掘成果を得て、黒曜一行の依頼は満了となった。あれから追加の冒険者が呼ばれることはなかったので、最終的には新発見した遺跡のほうにまで手は回らなかったのだが、トキは成果に満足したらしく「いい仕事をありがとう」と言った。
「いったん、ここまでの調査結果をまとめて……それが終わったらまた、発掘調査さ」
そのときはよかったら、またどうだ? と続けるので、
「ぜひ!」
サナギが身を乗り出して目を輝かせた。黒曜はというと「そのときは星数えの夜会に依頼書を出してくれ」とごく事務的な反応を返すに留まる。
タンジェとしては、いろいろあったが、悪い依頼ではなかったと思う。
ただ――いろいろあったうちに、トキが言った言葉は、タンジェの心の隅でなんとなく引っかかっている。
――黒曜のことを語るとき、お前はいい顔をしている。
――黒曜のことが気に入っている。何なら好き――そういう顔だ。
タンジェは、黒曜のことを考える。暗やみの中を手探るように。