暗中ディスカバー:裏 1
遺跡発掘の依頼で、新発見した新たなる遺跡――。
黒曜一行は、同じ依頼を受けていた別冒険者パーティ『カーマイン一行』と手分けして遺跡を探ることになった。黒曜一行は本来の依頼どおり従来の遺跡の発掘調査を、カーマイン一行は依頼人のトキとともに新発見した遺跡に潜り現地調査を担当する。
1時間で戻ると約束した依頼主トキは、しかして2時間待っても帰らない。業を煮やしたせっかちなタンジェが呼んでくると言って遺跡のほうに向かって、さらに1時間。
「うーん、これは」
サナギが言った。「ミイラ取りがミイラになったかな」
「……やっぱりね」
答えたわけではないだろうが、続いて聞こえたのは緑玉の呟きだった。黒曜がついと視線を上げれば、緑玉は、
「金に目が眩んだ人間がやる事なんていつだって一緒でしょ」
ごく冷めた声色で言った。
もしかしてだけれど、と前置きして、パーシィは、
「カーマイン一行が『アントロッドの黄金の聖印』を目的に、トキをどうにかした、と言いたいのかい?」
「そう言ってる」
「つまりトキは殺されたから戻ってこない、と?」
「そんな度胸がある連中には見えなかったけどなあ」
と、会話に口を挟んだサナギは腕を組み、首をコテと傾げた。緑玉は眉を寄せてため息をつく。
「サナギは頭いいかもしれないけど、人を疑わなすぎ」
「そうかな。まあそうだとして、リーダーの黒曜や遊撃手の緑玉がカバーしてくれるでしょ。遊撃手は役職の一部が機能しなくなったとき、それを代理でやるのも仕事なんだからさ」
気楽なサナギの様子に、緑玉はもう一度ため息をついた。緑玉の言うとおり、サナギは参謀としては優れた男なのだが、少し人間のことを信じすぎるきらいがある。
「ところでなんだが、トキが殺されてるなら、タンジェも殺されているのでは?」
と言ったのはパーシィだが、言葉のわりにまったく深刻にも思っていない調子だった。その言葉を受け、
「今ならまだ間に合うかな?」
サナギが立ち上がる。サナギ一人を行かせたところで、彼こそミイラ取りがミイラになりかねない。黒曜も立ち上がった。
そうなれば、全員がリーダーに従うことになる。アノニムも舌打ちしたものの立ち上がり、隅に寄せていた棍棒を手に取った。続いて一同各々武装し、一行はタンジェとトキを迎えに遺跡まで向かう。
ほどなく遺跡に到着した。遺跡には分かりやすい足跡があり、盗賊役のタンジェがいなくてもその足取りを追うことは容易だった。
警戒を忘れず、かといって慎重になりすぎて時間をかけるのもよくない。先に潜入しているカーマイン一行が後続を潰すために罠を張っている可能性も視野に入れる。盗賊役のタンジェがいなければ、先にサナギが言ったように、欠けた部分を補うのは遊撃手の緑玉の役目だ。元より慎重で神経質な性格の緑玉であるから、罠などには敏感だ。
「といっても、俺は罠の解除なんかの訓練を正式にはやってないから」
と緑玉は言う。
「まだ素人同然とはいえ、訓練積んでるタンジェリンみたいにはいかないからね」
黒曜は無言で頷いた。分かってるよ、と言葉で応じたのはサナギで、
「見つけさえできれば、場合によっては破壊とか、敢えて引っかかるって方法も取れるからね。大事なのは見つけること」
「……まあ、分かってるならいいけど」
しかしながら、緑玉も含め、全員の警戒はあまり意味を為さなかった。奥にある小部屋まで、一同はいっさいの罠にかかることも、迷うことすらなく辿りついたためだ。少なくともここまでに後続を貶める罠らしきものはなかった。
だがカーマイン一行も、トキもタンジェも見当たらない。小部屋にはまだ先があるようだ。一見、行き止まりだが注意深く見ていくと向かって左の壁に不自然な盛り上がりがあり、触ってみるとわずかに動く。何らかのスイッチらしく、相談ののち押し込んでみれば、反対方向の壁が音を立てて一部、開いた。隠し扉というわけだ。
しかしスイッチから手を離すと、隠し扉は閉まってしまう。誰かはここに残らなくてはならない、ということらしい。
「じゃあ俺、残ろうか?」
パーシィが軽く挙手した。
「何かあったときにここに戻ってくれば俺がいる、と分かっていれば、先に進んだ側が怪我をしても戻ってくればいいわけだから」
「確かに、先に進む側にパーシィがいては、残った側に何かあったときに対応できないか」
頷いたサナギが、
「じゃあアノニムも残していこう。パーシィの護衛ということで」
「それは心強いな。自分の身くらい守れるつもりだが、何があるか分からないし」
先に進む側としても、参謀とリーダー、遊撃手のメンバー構成は妥当だろうと思われた。パーシィはさっそく、隠し扉のスイッチを押す。開いた扉の先に、ひとまず危険がないことと、扉が閉まったあと足音が残る側に聞こえるかどうか――ほかに出入り口がなければ、残った側が隠し扉のスイッチを押さねば進んだ側が出てこられないので――を確認する。奥に進んだ者たちの足音は、分厚い石壁に阻まれてパーシィには聞こえなかったが、人外たるアノニムには足音が明瞭に聞こえるらしい。問題ないと判断した。
「しかし、ということは、カーマイン一行も、誰か最低一人はここに残っているはずだよな」
パーシィは腕を組み、首を傾げた。
「姿が見当たらないが」
「もしかしたらだけど、この隠し扉の先に、また別の隠し扉が開くスイッチがあるのかもしれないよ」
答えたのはサナギ。二手に分かれつつ先に進んでいるということか。ありえる話ではある。
隠し扉の先でどうやらやはりカーマイン一行が進んだらしい足跡を見つけ、黒曜、緑玉、サナギは先に進んでいった。