暗中ディスカバー:裏 2
【パーシィ・アノニムSide】
3人が無事に隠し通路の奥に進んでいったのを見届け、パーシィはスイッチから手を離した。隠し扉が閉じる。
「カーマイン一行も、ここに誰かしらが残ったのは間違いない。で、サナギの予想では隠し扉の先にほかの隠し扉のスイッチがあるのかもしれない、ということだったが、もしそうだとして、隠し扉が開き次第そちらに行ってしまっては、最初の隠し扉に進んだ側が出てこれなくないか?」
「馬鹿しかいねえんだろ」
アノニムの容赦のない応答に、パーシィは、
「まあ、そうか」
特に疑問もなく頷いた。
それから何事もなく15分から20分程度が経っただろうか、不意に物音を立てて、向かって奥の壁が開いた。パーシィとアノニムはどこにも不用意に触れたりしていないので、恐らくサナギの想像通り、黒曜たちが行った先の隠し通路で隠し扉を開けるスイッチを見つけたのだろう。あるいはカーマイン一行が別の場所でスイッチを見つけた可能性もあるが……。
もちろん、ここで待機するために残ったので、そちらに進む気はない。黒曜たちが開けたのだとて、先に進めという意味合いで開けたわけでもないだろう。必要があれば、3人もいるのだ、誰かしらがその通り連絡に来る。サナギが好奇心のためにスイッチを押して開けただけではないか。
と思って開いた扉を眺めていると、中からドタドタと足音がして、3人、人が飛び出してきた。まず目についたのは大きな身体のレグホーン、それから息を切らせているのはシスター服のクロッカスと、片目隠れの前髪のゼニスであった。
「も、もう出られないかと思、思いました……」
涙目のクロッカスが震え声で言う。その背中で隠し扉が閉まっていった。
どうやら先に同じシチュエーションになって、彼らは不用意にも開いた扉に残った全員で入ってしまったらしかった。すぐさま状況を察したパーシィは、
「さすがに不用心では? そちらのゼニスは参謀ではないのか?」
と、直球で尋ねた。
「う、うるさいっ」
ゼニスは顔を真っ赤にして大きな声を上げる。
「もしかしたら、カーマインたちが先に進むのに、この隠し通路からのアプローチも必要かもしれないだろうがっ」
「必要なら誰かしら伝令が来るものだろう」
「そ、そうですよ、やっぱり誰か来るのを待ってるべきだったんです」
主張するように小さな拳を必死に上げ下げしたクロッカスが、
「それなのに、ゼニスくんは、もしかしたらカーマインくんたちより先に財宝を見つけられるかもって――」
「クロッカス! 余計なことは言わんでいい」
鋭く彼女を制止したゼニスが、誤魔化すように咳払いする。
「……ええと、お前らは確か、パーシィとアノニムだったか。聖職者と戦士か……」
神経質に前髪を撫でたゼニスがじろじろとこちらを眺める。ゼニスはちらとクロッカスに何やら目くばせした。クロッカスはそれで、手をポンと叩いて、
「そ、そうそう、私、パーシィさんとはたくさんお話したかったんです」
「話?」
女子に絡まれるのは慣れているので、特に不審にも思わずパーシィは首を傾げた。クロッカスは、
「同じ聖ミゼリカ教徒ではありませんか。信仰についてお話しましょうよ」
「はあ。それはまあ、構わないが……」
急すぎる話題だが、別にほかにすることがあるわけでもなく、パーシィは素直に頷いた。"カーマイン一行が財宝の独占を狙い、トキとタンジェを害した可能性"を忘れているわけではない。そうなればこのゼニスたち3人も後続のパーシィたちに悪意を持っていることは想像に難くなく、さっきのゼニスの意味ありげな目くばせも加味すると、恐らくクロッカスに意識を集中させるために話題を振ってきたのだろうことも分かる。ただ、パーシィとしては、アノニムがいるので特に怖いものでもないのだった。
「ええと――パーシィさんは、いつから信仰をお持ちになりましたの?」
変なことを聞く。パーシィは素直に告げた。
「俺は"生まれながらに"聖ミゼリカ教徒だよ」
嘘ではない。パーシィは天使として誕生したときから神のしもべとしてできている。堕天したとて変わらず、パーシィが"宗教を志したきっかけ"などというものは存在しない。しかしクロッカスは静かに笑い、
「生まれついて信仰を持っている人なんていませんよ。人の信仰心はすべて、あとから芽生えるものです」
と、諭すように言った。パーシィははあ、と返事をした。
「生まれながらの聖ミゼリカ教徒だと言って、信仰心の深さを主張したいのは分かります。ですが、それは嘘ですよね。だって、赤子のころから信仰のことが分かりましたか?」
パーシィは誕生以来、赤子だったことがない。彼女はそういうイレギュラーを想定していないのだ。だが、クロッカスの主張は案外、もっともかもしれない。パーシィにとって赤子ほど想像のつかない存在もないが、たぶん、赤子に信仰はない。成長するに従って信仰に目覚めるのは妥当だ。パーシィはなるほど、と頷いた。それに気を良くしたらしいクロッカスは、
「聖職者は、神に選ばれてなるものです。私も神の声が聞こえて、そこから信仰心が芽生えたのですから」
パーシィはもう一度頷き、
「失礼だが、クスリなどをやっておられる?」
クロッカスは言葉の意味が分からなかったらしく、きょとんと目を丸くしてこちらを見ていたが、ようやく理解したときには顔を真っ赤にして、
「何を言うのですか! わ、私の信仰が妄言だとでも!?」
「妄言か妄想かは知らないが、まあ、信仰自体は悪いことではないからな……」
「あ、あなた、失礼ですよ!」
そう言われても、神が人間一人にわざわざ言葉を授けるなんてことあるわけがないのだ。神にとって人間はすべて平等に有象無象で、特定の個人どころか、人間に対して恩寵を与えることすらありえない。
もしクロッカスに何か言葉が聞こえたのが真実だとしても、神からの言葉であることだけは絶対にありえないのだ。そうなればまず幻覚か、悪意ある他人に詐欺を受けた、ということになるだろう。
「だいたい、"生まれながら"と言っているあなたの信仰こそ欺瞞で――」
「クロッカス、もういいぞ」
と、ゼニスが会話に割り込んだ。クロッカスとパーシィは同時にそちらを見る。