カンテラテンカ

暗中ディスカバー:裏 3

 先ほどからゼニスが何かぶつぶつ言っているのは聞こえていたが、パーシィの聞こえる範囲では攻撃呪文ではなさそうなので放っておいた。
「――<展開>!」
 ゼニスの言葉と同時に、ゼニスの周囲に微かに光を帯びた半円形のドームが出現した。結界の類だろうと見当がつく。
「<アンチショック>の結界だよ。これでお前らの攻撃は俺には届かない。それどころか受けた衝撃は倍になって跳ね返る」
「はあ」
 勝手に解説を始めたゼニスに、パーシィはまた気の抜けた返事をした。
「さあ、やれ、レグホーン」
「ン」
 と、戦士のレグホーンが背に担いでいた大きなハンマーを持ち直し、構えた。アノニムが面倒そうに首を傾ける。
 間髪入れずまっすぐにパーシィに向かってくるレグホーン。回復役の聖職者から狙うのは正道だが、軌道があまりに分かりやすい。パーシィが避けるまでもなく、間に滑り込んだアノニムが、振り下ろされたハンマーにぴったりとタイミングを合わせて棍棒を振り抜いた。棍棒は木製だというのに、アノニムの恐ろしく卓越した戦闘技術においては、それは、折れない。凄まじい衝撃を受けたハンマーは軌道をずらされてパーシィの遥か右手に落ちた。
「ウン……!?」
 レグホーンが呻くような声を上げる。
「大した力じゃねえな。タンジェリンのほうがはるかに怪力だ」
 もしかしてあの野郎こんなのに負けたのか、と続けて吐き捨てたアノニムは、そのまま流れるようにレグホーンの顎に棍棒の一撃を喰らわせ、あっさりと昏倒させた。
「え……え?」
 あまりにも鮮やかな一瞬の出来事に、クロッカスが倒れたレグホーンとアノニムの顔を見比べている。
「な……れ、レグホーンを……一撃だと……!?」
 ゼニスも驚いているが、
「驚くくらいなら最初から戦士の彼にも<アンチショック>とやらをかけてやればよかったのでは?」
 何故、前線で身体を張る戦士役に結界を張らず、自分の周囲に張ったのか、パーシィとしては意味が分からない。アノニムは嘲笑半分に鼻を鳴らした。
「戦士のことを見下してやがるんだろ」
「……なるほど」
 パーシィは納得の意を込めて首肯する。それから、
「自分の代わりに身体を張る相手を見下すのはよくない」
 と、真っ当らしいことを口に出した。
「う、うるさいっ! あいつはそれしか能がないんだ。それより、お前ら、ここから生きて帰れると思うな。俺の<アンチショック>で、お前たちからの攻撃は俺には届かないんだからな! ここからはなぶり殺しだよ」
「なるほど、最初から戦士役のことをあてにしていない、というわけだ」
 応じている間に、何事か詠唱したゼニスは、
「<ウォーター・アロー>!」
 ごぼりと音がして空中に生成された水がたちまち矢のように鋭く射出される。
「<プロテクション>!」
 パーシィの声と同時に不可視の壁が構成されて水の矢を受け止め、霧散させた。プロテクションは長くは続かない。こちらの壁もすぐに消失する。だが、向こうの攻撃をいなすくらいはわけないだろう。受けはいい。さて、では攻めは?
「パーシィ」
 アノニムがちらとこちらを見た。パーシィはしばらくアノニムの顔を見て、それから彼の言いたい言葉を理解し、頷いた。
「分かった。タイミングを合わせるよ」
 アノニムはパーシィの言葉を最後まで待たず、ゼニスのほうへ走り出した。
「はっ、馬鹿が! どんな攻撃をしたって、<アンチショック>は倍にして跳ね返すぞ!」
 無視してアノニムはその場で跳躍した。それに合わせ、
「<プロテクション>!」
 アノニムの身体が重力に負けて落ちかける一瞬の隙に、不可避の壁を発生させてアノニムを受け止める。それを足場に再度飛び上がったアノニムは遺跡の天井まで迫る。そして落下の勢いも乗せ、真上から<アンチショック>の結界に棍棒を叩きこんだ。ゼニスの言葉どおり、衝撃が跳ね返る。倍の威力を浴びた棍棒はさすがに砕け、それでも相殺しきれなかった衝撃は天井まで届いてぶつかり、凄まじい音を立てた。
 それからアノニムは着地し、バックステップでパーシィのところまで戻ってきた。棍棒がもっていかれた衝撃で折れたらしい指をパーシィに差し出すので、パーシィはすぐにそれを祈りの奇跡で癒す。
「な、なにをするかと思えば……」
 はは、とゼニスは気が抜けたように笑った。
「上からなら攻撃が通ると思ったのか? 残念だったな、<アンチショック>はドーム状で、死角はない」
 と言っているうちに、ゼニスの真上の天井、アノニムが与えた衝撃が<アンチショック>で跳ね返った部分に亀裂が入り、ぱらりと小石が落ちて来た。その小石が<アンチショック>に当たり、衝撃は倍になって跳ね返る。小石は弾けたが、それで相殺しきれなかった衝撃がまた天井まで届き、亀裂が大きくなる。
「お前らは俺に対してなす術は――」
 まで言ったところで、ゼニスの周囲にけたたましい音を立てながら土砂が降り注いだ。亀裂の入った天井だ。衝撃として伝わる天井からの瓦礫は跳ね返るが、ゼニスの四方向にみるみる積み上がる土砂で彼は<アンチショック>ごと囲まれていく。天井部分の衝撃の跳ね返りは衝撃を跳ね返し、ますます天井の崩落を早め、事態を悪化させるだけで意味をなしていない。が、ここで<アンチショック>を解除すれば、四方と上方の瓦礫で潰れて死ぬだけだ。
 たちまち生き埋めになったゼニスの声は、土砂に囲まれてパーシィにはもう聞こえない。アノニムには聞こえているかもしれないが、アノニムは無表情のままクロッカスを向いた。
「ぜ、ゼニスくん――」
「あれはもう助からないな」
 パーシィは思ったまま言った。
「か、神よ……ど、どうして……」
 真っ青な顔のクロッカスに、パーシィは尋ねた。
「神からの声は聞こえたかい?」
 クロッカスは今度は眉を怒らせ真っ赤になり、だがすぐに青ざめるのを繰り返し、半泣きで足をもつらせ、レグホーンを叩き起こし、よろよろと2人で遺跡の出口に向かって走り去っていった。
「追わなくてもいいものかな?」
「知らねえ」
「そうだね。まあいいか」
 土砂が崩れ続けるゼニスのいるであろう地点を眺めながら、パーシィは頷いた。

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