暗中ディスカバー:裏 4
【黒曜・緑玉・サナギSide】
「あっれぇ! どうしたの? 3人で」
と、サナギたちの姿を見たカーマインが言った。
隠し通路の先、途中でサナギが好奇心のままスイッチを押すなど些細な出来事はあった――こちらでは何も起こらなかったので、もしかしたらパーシィたちの待機している小部屋で何かあったのかもしれない――が、サナギたちはトラブルなく進んでいた。先にはまた小部屋があって、そこにカーマインと遊撃手アイビーがいた。
「どうしたの、はこちらの台詞なんだけれどね」
サナギは肩を竦めた。リーダーは黒曜なのだが、黒曜は社交的ではないのでこういうときはサナギが話す。サナギは喋るのが好きだし、適材適所というやつだ。
「トキさんとうちのタンジェは?」
「と、トキさんなら隠し扉のあった小部屋に残してきたぜ。見なかったか?」
「見なかったねえ」
「タンジェリンなんか、会ってもいねえよ」
「そう?」
サナギはわざとらしく首を傾げてみせた。
「そ、そうそう。サナギちゃんは心配性だねえ」
「だって、隠し扉のあった部屋にトキさんはいなかったもの」
わざわざちゃん付けされたということは、カーマインに女だと勘違いされているかもしれないが、そこには頓着せずサナギは応じた。そうか、どこに行っちまったんだろうなあ、とカーマインはすっとぼけたことを言って、
「それじゃあ、先に外に出たんじゃないか? だって、1時間でお前らのほうに戻るって話だったもんな」
「それで戻ってこないから探しに来てるんだけど」
と、低い声で緑玉が話に割り込む。機嫌が悪そうだ。
「知らねえって言ってるじゃん。そんなことよりさ、サナギちゃん、うちのパーティ来ない?」
「ええ?」
急に話の飛んだカーマインに一瞬驚いたものの、サナギは思わず笑んだ。何か面白いこと言い出したぞ、の笑みである。
「何それ?」
「うちのゼニスと交換しようぜ。ゼニスはなんていうか、神経質だしあんま気が合わなくてさあ」
「そういえばここにいないものね」
「そうそう。別行動取ってんだよ。ゼニスとクロッカスとレグホーンは置いてきたんだ」
サナギは目を細めた。
「でもここにはカーマインとアイビーしかいないね。スズは?」
「スズは――」
その瞬間、金属同士がぶつかって鳴る高い音が響いた。サナギが視線だけ移せば、スズのナイフの刃が黒曜の青龍刀に止められている。スズの刃の軌跡は緑玉の首を狙ったらしいことが一目瞭然で、要するにスズが暗闇に隠れて暗殺を狙っていたことも確かであった。先ほどの問答は、こちらの油断を誘うためのものであろう。
「チッ」
スズは素早く黒曜と距離を取った。
「なるほど。やっぱり宝を独占するつもりなのは確からしいね。まあ未だに『アントロッドの黄金の聖印』に辿りついてはいないみたいだけど――」
「お前らを殺してゆっくり探すよ! トキだってタンジェリンだってもう死んでるだろうさ」
「どういうこと? 殺したの?」
「穴に突き落としたよ。戻ってこないってことは、落ちた先でもう死んだだろ」
なんて見込みが甘いんだ! と、サナギはいっそ感動した。宝に目がくらんだ人間というのはこうも盲目なものか。
「殺しても死ななさそう、タンジェリン」
ぼそ、と緑玉が言い、それがあまりに可笑しくてサナギは場違いに笑ってしまった。緑玉が「なに」と文句を言うので、
「いや、正しい評価だなあと思って」
緑玉はむすっとした顔のまま、自身に刃を向けたスズと睨み合っている。スズはナイフを構えたままじりじりと緑玉、あるいはサナギの隙を狙っているらしいが、そう簡単に二撃目を喰らってやるほどお人好しではない。
というか、二撃目のチャンスを与えてやるつもりすらないのが、一人いた。
黒曜である。一瞬にしてスズたちカーマイン一行の視界と意識から自然に消え、そして今、現れたときには、もう彼の青龍刀はスズの首を落としていた。
血をまき散らしながら転がるスズの首に、一瞬、何が起きたか分からない、という顔をしていたカーマインとアイビーは、その次の瞬間には、
「て、てめぇええ!」
「イヤァァー!」
同時に大声を上げていた。
「す、スズ、スズを、殺しやがったな!」
黒曜は涼しい顔をして応じず、サナギが代弁した。
「先に緑玉を殺そうとしたのはそちらだよね? 明確に殺意があったよ」
「で、でも、そっちはケガ一つしてないのにっ!」
「それ、関係ある?」
と、緑玉は面倒そうに首を傾げた。
「く、くそっ! スズの仇だ! この腐れ外道どもめ!」
カーマインは剣を抜き、構えた。
「気持ちは分かるけど、そもそも財宝の独り占めを……」
「うるせえー!」
一番ひ弱そうだからだろう、サナギに向かって一直線に向かってくるカーマイン。スズの仇を謳うならまず黒曜を狙って然るべきでは? と思いつつ、サナギは太もものホルスターから銃を抜こうか逡巡した。まっすぐに向かってくるので、弾はまず外さない。しかし撃ってしまっては確実に死ぬ。黒曜がスズを殺すのを見過ごした以上、サナギだけ綺麗な身の上でいたいというわけではないのだが――だいたい、人に言いづらいことは今までの人生で結構やってきている――さすがに殺すのはやりすぎかなあ、と思わないこともないのである。
が、サナギが反応する前に数歩で間合いを詰めた緑玉がトンファーで鋭く一閃、カーマインの顎を打ち抜いていた。
「がっ……!」
カーマインは大きく仰け反り、背中から地面に落ちて昏倒した。
「ひぇ」
一瞬にして壊滅したパーティを前に、アイビーが怯えた顔をする。サナギたち3人の視線は自然にアイビーのほうに向かい、
「や、やだ、やだやだ!」
アイビーは首を必死に横に振った。
「あ、あたしは、やめようって言ったの! 宝の独り占めは恨まれるって言った!」
そして、
「あたしは遊撃手だよ? 遊撃手はパーティの中でも器用貧乏の劣等生がなる役職よね? あたしは何やっても二番手だもん、無害だって分かるでしょ? 殺したりしないよね?」
彼女はほとんど泣いている。サナギはどうする? の意を込めて、無感情にアイビーの言葉を聞いていた黒曜を向いた。黒曜は特に応じなかったが、緑玉が数歩だけアイビーに近づき、
「……遊撃手はほかの役職の欠けを補う。……盗賊役が死んだ今、次に俺たちの暗殺をするのはあんただし、戦士役の代わりにあんたが戦わなくちゃいけない。リーダーの代わりにあんた自身が決めなくちゃいけない」
あんた、パーティにいて何も学ばなかったんだね、と続けて、
「俺はここにいない戦士のために戦うし、ほんとなら盗賊役の代わりに暗殺するのも俺の役目」
立ち竦むアイビーにトンファーを振り上げて、もっとも、と言った。
「タンジェリンには暗殺なんてできないだろうけど」
振り下ろされたトンファーは、正確にアイビーの頭を砕き息の根を止めた。