羽化 1
- 2024/02/01 (Thu)
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鏡の前に立って、サナギは一回転する。燕尾が遠心力でくるりと回って、正面でぴたりと止まったサナギ自身より少しだけ長い間揺れた。
ネクタイが曲がってないか、服にシワがないかを確認。オッケー! 髪の毛も整えて、今日はシンプルな髪留めにした。
自室を出て階下に下りると、みんなが物珍しげにこちらを見てくる。
「なんだよ? その格好」
タンジェの質問に、サナギは満面の笑顔で答えた。
「正装だよ。なかなかどうして、似合うだろ?」
『一代前の俺』が若い頃用意した、古いやつなんだけどね、と聞かれてもいないのに説明した。
「いやぁ、きちんととっておいたかいがあったな」
「なんでまたそんな格好を?」
今度の質問はパーシィから。
「なんでって、冒険者が正装する機会なんかそう多くはないだろ?」
「だから聞いてるんじゃないか」
「結婚式に呼ばれたんだよ」
パーシィが目を瞬かせる。彼は結婚式とか、そもそも結婚の概念とかは分かるのだろうか。
「誰の?」
あ、分かるんだ、と思いながら、サナギは答えた。
「この宿に来る前に、俺は錬金術連盟に所属してたんだけど、その連盟には研究室……まぁ、要は志を同じくする者たちが集まる小さなグループがあってね。そのグループで一緒だった人だよ。同窓生とか言えばいいかな」
「サナギにそんな関係の人がいたとは、知らなかったな」
研究室とか同窓生とかの意味はよく分からなかったかもしれないが、それでも反応はごく真っ当で、
「何はともあれ、めでたいことだな。行ってらっしゃい」
と、にこりと微笑んだ。
元天使のパーシィにとってヒトの営みは理解しがたいこともあると思う。たまにそれが口に出てしまうパーシィだったが、サナギはそんなパーシィがぜんぜん嫌いじゃない。
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