不退転の男 1
ようやく買い出しが終わった。店が開いてすぐに出かけたのに、昼前になってしまった。
親父さんから頼まれたお使いはなかなかの量で、これを歳のいった親父さんや娘さんに運ばせるのは悪い。引き受けた理由はそれだけだ。
俺――タンジェリン・タンゴ――がこのお使いを引き受けなかったとて、別に他に予定があるわけでもなかった。
お使いメモを確認して――サナギの書くそれに比べて、なんと読みやすいことか!――不足のものがないことを確認する。問題ないと判断し、星数えの夜会への帰路を歩く。
馬車が横切るのを待つ大通りで、くい、と服の裾を引かれた。見下ろすと、子供がひとり、俺の服の裾を掴んで俺を見上げている。
知らないガキだ。もっとも、知ってるガキのほうが少ない。
「なんだよ?」
上から睨んだが、子供はまったく怯んだ様子がない。太陽光をいっぱいに浴びてキラキラ光る大きな目でしばらく俺のことを見上げていたが、
「パパとママが……」
と、呟いた。
「あ?」
「パパとママが戻ってこないんだ」
子供にはまるで悲壮感も焦燥感もなかったが、その言葉に同情した。内心で、ほんの少しだけだ。とはいえ俺にできることなんざ別にない。
「で?」
と俺は言った。
「お兄さん、冒険者さんでしょ?」
「……なんで分かった?」
「星数えの夜会は、お兄さんたちが思ってるより有名だよ」
俺は子供を見下ろした。子供は無邪気に笑っている。
「ね、依頼を受けてほしいな。ボクのパパとママを探して! お礼ならできるんだ」
依頼内容の割に、ずいぶん気楽な様子だった。
★・・・・
とりあえずお使いの荷物を親父さんに預けて、結局ついてきた子供を適当なテーブル席に座らせて、それからパーティのメンバーを探した。ガキの親を探す程度の依頼、本来なら俺一人でも済むのだが、問題は子供が告げた「パパとママがいると思う場所」だった。子供は「パパとママは学者さんで、遺跡に行ったんだよ」と言った。
とりあえずお使いの荷物を親父さんに預けて、結局ついてきた子供を適当なテーブル席に座らせて、それからパーティのメンバーを探した。ガキの親を探す程度の依頼、本来なら俺一人でも済むのだが、問題は子供が告げた「パパとママがいると思う場所」だった。子供は「パパとママは学者さんで、遺跡に行ったんだよ」と言った。
遺跡。確かにベルベルントの周囲にはいくつか遺跡がある。すでに発掘・盗掘され尽くした出涸らしだと聞いているが、学者ならば行くこともあるのだろうか。問題は、放棄されたその遺跡には定期的に妖魔が住み着く、と聞き及んでいること。そのたびに駆除されているようなのだが、こいつの両親が帰らないなら、最悪の場合を考えなければいけない。
子供がテーブル席で足をぷらぷらさせているのを横目に、見慣れた顔を探せば、黒曜とパーシィはすぐに捕まった。アノニムはたまたま外出から帰ってきたところに声をかけることができた。
「サナギと緑玉知らねえか」
たまたま近くにいた翠玉に尋ねると、鳥がさえずるように控えめに笑って、
「二人でお出かけしましたよ」
と。
サナギと緑玉が? ……もしかして、本当に仲がいいのか?
ともかく、そういうことなら仕方ない。妖魔のいるあでろう遺跡とはいえ、ベルベルントの郊外。フルメンバーで臨むほどの危険はないだろう。
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