カンテラテンカ

エセンシア 3

 俺の身体がカッと熱くなる。緑色の巨体を目に入れただけで、俺の復讐心に火が点いたようになって、俺は暴れた。だが、鎖はまったくびくともしない。
「てめぇ!! 俺をおちょくってるんだな!?」
 ラヒズが、俺の復讐の件を知って、俺に嫌がらせをしているのだと思った。
「この鎖は何だ!? テメェ……今すぐ外しやがれ!!」
「活きがいいですねぇ」
 満足そうにうんうん頷くラヒズは、俺の横のオーガに視線を移し、
「どうですか、念願のタンジェリンくんとの再会は」
 と話しかけた。
 念願? 再会?
「……ラヒズ様」
 突然、横のオーガが声を発した。声、確かにそれは声、で、いや、言葉、だった。俺は混乱した。オーガが言葉を話すなんて聞いたことがない。これではまるきり、あのときに見た悪夢じゃないか。オーガが言葉を話すなんざ、悪夢だったから許されていたことだ。
「我々は再会までは望んでおりませんでしたよね? 無事と健康が分かればそれでいいとお話ししたはず」
 何が起きてる? オーガの流暢な言葉を聞いて混乱したのもあるし、その内容も意味が分からなかった。このオーガは何なんだ? その瞳に、確実に理性がある。
「でも、会えて嬉しいでしょう?」
 ラヒズの言葉に、オーガは溜め息さえもついてみせた。
「何なんだよ……!? なんでオーガが共通語を喋ってる!?」
「タンジェリンくん」
 ラヒズは幼い子供に言い聞かせるように優しい声色で言った。
「きみが倒れたのは、ストリャ村の周囲に張られた結界のせいですよ」
「結界? なんでそんなもんがストリャ村に?」
「『オーガ避けの結界』です」
 意味が分からねえ。なんでそんなもんが、俺が倒れたのと関係がある?
「前提としてですね。ペケニヨ村を襲ったあとのオーガは、少し南下してストリャ村の近辺に住処を移しました。ペケニヨ村の二の舞になってはいけないと、ストリャ村はオーガ避けの結界を張るよう魔術師に頼みました。で、私がその結界を張りました。きみはそれに引っかかった」
 つらつらと台本でも読み上げるみたいに説明するラヒズ。
「大事なところが説明できてねえぞ。なんで『オーガ避け』に俺が引っかかるんだよ。人間が引っかかったら欠陥もいいとこだろうが!」
 だんだん頭も冴えてきて、痛みも引いてきた。俺はまっとうなことを言ったと思う。だが、ラヒズは至って平坦な声色で、俺にこう告げた。

「きみがオーガだからですよ」

 何を言ってる?
「わけの分からねえことを言ってるんじゃねえよ……」
 怒りすら湧いてきた。俺がオーガだと? ふざけた冗談だ。
「そこのオーガが何故共通語を話しているのかと聞きましたね」
 俺の燃え滾る怒りに気付いているのかいないのか、ラヒズは体勢一つも変えずに言った。
「オーガが共通語を話しているんじゃない。きみが、オーガの言葉を理解しているのですよ」
 がしゃん! と、鎖が大きな音を立てた。
「ふざけたこと言ってるんじゃねえ!!」
 鎖より大きな声で、俺は怒鳴り散らした。
「俺の両親は人間だし、オーガは俺にとって仇だ!! 悪趣味な冗談はやめろ……殺すぞ!!」
 ラヒズは肩を竦めた。
「俺は人間だ!! 俺に適当な嘘を吹き込んで、テメェになんのメリットがある!!」
「メリットですか?」
 メリットはないですね、と。続けて言うことには、
「これは、ただの『約束』なので」

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