カンテラテンカ

羽化 1

 鏡の前に立って、俺――サナギ・シノニム――は一回転する。燕尾が遠心力でくるりと回って、正面でぴたりと止まった俺より少しだけ長い間揺れた。
 ネクタイが曲がってないか、服にシワがないかを確認。オッケー! 髪の毛も整えて、今日はシンプルな髪留めにした。
 自室を出て階下に下りると、みんなが物珍しげにこちらを見てくる。
「なんだよ? その格好」
 タンジェの質問に、俺は満面の笑顔で答えた。
「正装だよ。なかなかどうして、似合うだろ?」
 『一代前の俺』が若い頃用意した、古いやつなんだけどね、と聞かれてもいないのに説明した。
「いやぁ、きちんととっておいたかいがあったな」
「なんでまたそんな格好を?」
 今度の質問はパーシィから。
「なんでって、冒険者が正装する機会なんかそう多くはないだろ?」
「だから聞いてるんじゃないか」
「結婚式に呼ばれたんだよ」
 パーシィが目を瞬かせる。結婚式とか結婚の概念とか分かるのかな? パーシィ。
「誰の?」
 あ、分かるんだ、と思いながら、俺は答えた。
「この宿に来る前に、俺は錬金術連盟に所属してたんだけど、その連盟には研究室……まぁ、要は志を同じくする者たちが集まる小さなグループがあってね。そのグループで一緒だった人だよ。同窓生とか言えばいいかな」
「サナギにそんな関係の人がいたとは、知らなかったな」
 研究室とか同窓生とかの意味はよく分からなかったらしく、ふわふわした反応を返したパーシィだったが、
「何はともあれ、めでたいことだな。行ってらっしゃい」
 と、まっとうなことを言った。本心かは知らない。元天使のパーシィにとってヒトの営みは理解しがたいこともあると思う。たまにそれが口に出てしまうパーシィだったが、最近は前よりちょっとマシだ。

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