カンテラテンカ

神降ろしの里<後編> 4

「なぁーんで俺の依頼中なのに別の依頼重ねて受けちゃうわけー?」
 言葉ほど不満そうには見えなかったが、らけるの言い分にも一理ある。とはいえ、文句があるならその場で言えばよかった。
「てめぇも反対しなかったじゃねえか」
「反対できる空気じゃなかったもん」
「そもそも依頼は行きと帰りの道中の護衛じゃん」
 ぼそ、と緑玉が口を挟んだ。
「今は行きでも帰りでもないんだから、依頼の隙間時間でしょ」
「そんなのあり!?」
「まあ帰りの護衛はしっかりやるからよ。それにマイリ踊りには参加できるんだ、文句はねえだろ」
 マイリ踊りに本物の死者が現れるってことはないだろう。会えたとしても、死者を名乗る赤の他人だ。どちらにせよ送還は無理だし、会えなかった場合だって、らけるは還れない。だがここまで来たなららけるだって納得できるはずだ。
「……ま、確かにまだ最後のワンチャンがあるもんな! 仏さんが本物のパターン!」
 パーティの全員が、それはないだろうと思っているが、もはや誰も口にはしなかった。
「んなことより腹ごしらえだろ」
 たぶん話を一番分かってないだろうアノニムがぶった切り、先頭を歩く。パーシィも小走りになってアノニムの横に並んだ。
「さっきからいい匂いがしてるもんな!」
 マイリ踊りまでまだ時間があるというので、俺たちは屋台で飯を買って食っておくことにしたのだ。見慣れないものばかりだが、確かに匂いは食欲をそそられる。らけるもそれ自体には賛成のようで、
「こっちの世界で食えるとは思ってなかったよ、焼きそば!」
 と、すぐに機嫌を直した。
 色とりどりの屋台には何か文字が書かれているのだが、俺には読めない。俺たちは村人と意思疎通のできるサナギと光蓮の先導する二つのグループに分かれて、手分けして飯を買った。
 買った屋台飯は光蓮の家で食わせてもらうことにする。
「ん、これ……うめえな」
 らけるが言っていた焼きそばというものだ。太平倭国の食事を出す店はベルベルントにもいくつかあって、俺自身も箸の使い方をここ数ヶ月でようやく覚えたところだった。それでもらけるや黒曜、緑玉のきれいな箸使いには及ばない。
「んまいよね!」
 らけるが焼きそばを頬張りながらニコニコ笑う。
「この紅ショウガがまた最高に合うんだよな!」
「ああ……てめぇ、箸使うの上手いな」
「ニッポンでは箸もスプーンもナイフもフォークも使うんだぜ!」
 ニッポンのイメージがうまく沸かない。屋内で靴は脱ぐのに、フォークやらを使う飯が出るのか? 混沌としてんな……。
「タンジェにもニッポンを紹介したいよ」
「無理だろ。てめぇですら帰れるかどうかって話なのによ」
「そうだよな……」
 らけるがだんだんしょぼくれてくるので面倒に思っていると、黒曜が横にやってきた。
「タンジェ、これもうまい」
「なんだそれ?」
「オコノミヤキと言っていた」
「オコノ……ミヤキ……?」
 見ると黒曜の持っている皿の上に円盤状に焼かれたホットケーキみたいなものが載っている。
「口を開けろ」
 言われるがまま口を開けると、黒曜が一口大に切ったオコノミヤキを放り込んだ。おお、こっちもソースの味がする。この食感は……キャベツか? なるほど、確かにこれもうまい。
「うまいな」
「ああ」
 視線を感じて、咀嚼しながら振り返ると、俺たちの様子を見たらけるが目をまんまるにしている。
「え!? 今の何!?」
「何でもねえよ、飯を分けてもらっただけだろ」
 言ったあとに恥ずかしくなってきた。確かに今のは明らかに男同士でやる所作じゃなかった。二口目を渡してこようとする黒曜に拒否の意を示すと、黒曜は少しだけ眉尻を下げた。
 めちゃくちゃ見られて恥ずかしいんだよ、ばか。
 渋々とオコノミヤキの切れ端を自分の口に入れる黒曜を見るとものすごく罪悪感が沸いてくる。八つ当たり気味にらけるを睨んだ。
「なんで睨むの!?」
「うるせぇ!」
 そんなこんなで買った飯を食べ終える頃には、すっかり日は沈んでいた。

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