カンテラテンカ

Over Night - High Roller 2

「緑玉を攫ったのは手練れの『黒服』さ」
「『黒服』?」
「カジノの裏方だよ」
「カジノなんざベルベルントにねえだろう」
 カジノというものの存在は知っている。賭け事を楽しむ娯楽施設だ、というくらいは。
 エスパルタにもあったくらいだから、どこの国にも一つはあるのかもしれないが、ベルベルントでは噂も聞いたことがなかった。
「そうだな。ベルベルントにカジノはねえ」
「じゃあどっから『黒服』なんて出てきたんだよ」
「移動カジノさ」
「……移動……カジノ?」
「ああ、移動サーカスならぬ『移動カジノ・シャルマン』――数日前にベルベルントにやってきて、つい三日前に開場したばかりだ」
 三日前といえば、緑玉が消えたタイミングだ。だが、緑玉が黒服に捕まる謂れはないだろう。あいつが移動カジノに関わる理由なんか、一つも思い浮かばなかった。
「だからよ……」
 ブルースは言った。
「『緑玉のほうから黒服に関わった』ってわけじゃねえ。『黒服のほうが緑玉に用があった』んだろうぜ」
「まさか、揉め事でも起こしたってのか? あの緑玉が……?」
「……」
 ブルースは「喉が渇いたな」と呟いた。見れば傾けていた酒瓶はカラのようだ。察した俺は、渋々、カウンターのバーテンに声をかける。
「おい。こっちのテーブルに一番安い酒をくれ。一杯でいい」
 バーテンが頷いたのを見届けてブルースに視線を戻すと「安く見られてんなぁ……」と項垂れている。こいつはどうせ情報を小出しにする。最初から高い酒なんか払ってたら俺の財布がもたない。
 届いた安酒をガッと呷ったブルースは、
「移動カジノ・シャルマンには裏の顔がある」
 と言った。
「裏の顔?」
「あそこはな、闇オークションの主催を兼ねてるのさ」
「闇オークションだと……?」
「俺たちのような裏稼業の奴らや好事家の間では有名な話だ。シャルマンの闇オークションはな……」
 それきりブルースは黙った。俺は仕方なく酒をもう一度注文する。先ほどよりひとまわり高い酒だ。
「へっへ、毎度あり」
 意地汚い笑みのブルースに若干辟易しつつ、俺は「闇オークションの主催を、カジノが?」と尋ねた。
「正確には、最初にあったのは闇オークションのほうさ。それの隠れ蓑に移動カジノを使うようになった」
「隠れ蓑までいるってことは、オークションにかけられるのもロクなもんじゃねえだろうな」
「盗品、いわく付き、珍獣、果ては奴隷までより取り見取りさ」
 奴隷、の言葉に思わず指が動く。努めて冷静を装ったが、師の前では意味はなかっただろう。
「分かるだろ? 見目のいい獣人が攫われた理由なんざ、それしかねえよ」
「……チッ!」
 俺は思い切り舌打ちした。ブルースが肩を竦める。
「他に質問は?」
 何故緑玉でなければ駄目だったのか――ベルベルントには他にも獣人はたくさんいる、もちろんそいつらならいい、というわけじゃないが――、闇オークションに潜り込む方法はあるのか、……いろいろ聞きたいことはあったが、あまり先走るのもよくない。俺はいったん情報を持ち帰ることにした。
「え、ほかに何も聞かねえのか?」
 ブルースがカラになったジョッキを掲げて寂しそうな顔をする。するな。

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