Over Night - High Roller １

　緑玉と翠玉、そして黒曜が突如として姿を消してから三日が経とうとしていた。

　サナギやらけるがずいぶんベルベルント中を探し回っているようだ。

「タンジェさんは、黒曜さんが心配じゃないんですか？」

　娘さんの質問に、

「ガキじゃねえんだから、必要がありゃちゃんと帰ってくるだろ」

　と言いつつ、俺――タンジェリン・タンゴ――だって、まったく心配していないというわけではなかった。

　突如として、と先に述べたが、目の前から忽然と消えたってわけじゃ、もちろんない。

　まず緑玉が出かけたきり星数えの夜会に戻らず、翌日の朝には翠玉と黒曜も消えていた。

　つまり、たぶん黒曜と翠玉に関しては、緑玉を探しに出かけたと考えるのが妥当だろう。

　それを俺たちに黙ったままで行く理由があるのかとか、せめて一日一回は顔を出しやがれとか、思わなくもないが…….。黒曜だって大人なのだから、仲間とはいえ――恋人とはいえ――それは過干渉ってもんだろう。

　夜会に帰ってきたサナギは、参ったね、と言った。

「さすがに、俺やらけるのような素人が情報収集するってのは限界がある」

「盗賊ギルドなら少しは情報があるんじゃねえか」

　俺の言葉に、サナギは少し思案げになる。

「……そうだね。お金はかかるけど、そろそろ手詰まりだし、話を聞いてみてもいいかもね」

　顔を上げて首を傾げて見せた。

「タンジェ、頼める？」

「別に構わねえが、本当に情報を聞いてくるだけだぞ？」

　俺にはその情報を分析して結論を出すスキルはねえし、と言うと、

「うん。きみが持ち帰ってきた情報に頭を使うのは俺の役目」

　まあそうだろう。だが、それなら最初からサナギが盗賊ギルドで話を聞けばいいのではないか。

「てめぇが直接聞きに行くんじゃ駄目なのかよ？」

「盗賊役以外が行くと、まずぼったくられるよ。それに、盗賊ギルドも盗賊役も格が下がる」

「そういうもんなのか……？」

　格、というものをあまり気にしていないので、ピンとこないのが正直なところだった。だが、そういうことならたぶん盗賊ギルドも嫌な顔をする。サナギを行かせるより俺が行ったほうが、要らん心配をする必要もないというわけか。

「分かった。盗賊ギルドに行ってくる」

「助かるよ。ありがとう」

　俺にとっては勝手知ったる場所だ。さっそく出発する。

　盗賊ギルドの中は普段より少し賑わっていて、すれ違った何人かの盗賊は、何やら賭け事の話をしているようだった。俺には関係がない。俺はまっすぐ師ブルースのところへ行った。

「よう」

　ブルースは俺の顔を見るや、片手を挙げてあいさつする。

「おう、……ちょっと聞きたいことがあってよ」

　盗賊ギルドの中で情報を扱う盗賊は多い。その中で俺が毎回ブルースを頼るのは、子弟の縁があるからだ。単純に、安く済む。

「うちのパーティの緑玉を、ベルベルントの街で見たヤツを知らねえか？」

「……」

　ブルースの目がきらりと光る。

「なるほどな、やっぱそういうことだったか」

「どういうことだ？　心当たりがあるのか!?」

　話が早い！　俺は思わず前のめりになった。ブルースは酒瓶から酒をついで、

「あの綺麗な顔した孔雀の獣人だろ？　あいつはな……攫われるのを見たって情報が近隣の住人から入ってる」

　緑玉が攫われるだと？　ありえないか、と言われればまあ、可能性はゼロじゃねえだろうが……。

　あの陰気な性格でいて、緑玉のガタイは大したものだ。俺よりはるかに背は高いし、身体付きもがっしりしている。

　ヤツだってこのパーティでなければ戦士役をやれるくらいには――本人の性格から言ってやりたがりはしないだろうが――戦闘能力もある。

　もし真っ向から攫おうってんなら……並大抵の労力じゃないはずだ。

　>>２