エセンシア 7
みんなの怪我は深くはなかった。強いて言うなら一番深いのはたぶん俺のメンタルへの傷だった。
山を手早く降りる最中、サナギとパーシィはラヒズの行き先について話をしていた。聞こえてはいたが、まったく頭には入ってこなかった。
アノニムが俺の横に来て、重い足取りの俺に言う。
「俺でも壊せなかった鎖を壊したんだろうが。胸を張れ」
「……」
なんだ? 元気付けに来たのか? 意外に思った。
「俺の姿を見ただろ」
「緑のでけぇ化け物だった」
アノニムは続けてこう言った。
「それがどうした」
「それがとうした、か」
乾いた笑みが出た。誰も何も気にしていないようだった。気にしてるのは、俺だけだ。でも、当たり前だろ? 自分が復讐相手と同じ種族で、復讐の始まりもそもそも俺のせいだなんて、気にしないほうがどうかしてる。気にしているのは、きっと俺がヒトと化け物の狭間にいて、それでも本質はヒトだからだと思いたい。
俺はオーガを憎んでいる。それにはきちんと理由があった。俺が愛したもの。愛されたもの。すべて壊された。
この機会に、あのオーガ共と決着を付ける。そのつもりだった。
なのに、今は分からなくなってしまった。
オーガと化して、あの熱い鼓動を動力にしたとき、俺の復讐という燃え上がる情熱まで、まとめてくべてしまったのかもしれなかった。
それが灰になってしまったのなら、俺はこの先、何を動力にして動けばいい?
【エセンシア 了】
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